生産性のパラドックス

新しい技術への投資が広がっているのに、生産性の数字がそれに見合って伸びない状態を指す。
経済学者の Robert Solow が1987年、コンピューターの時代はどこにでも見えるのに、生産性の統計にだけは見えないと書いたことで広く知られた。
Brynjolfsson(1993年)は理由の候補に、測り方の誤り、学習と調整の遅れ、利益が他社から移るだけの再配分、効果を測れないまま投資を続ける管理のまずさを挙げた。
1990年代に生産性の伸びが戻ると、遅れの説明が支持された。
3つの例で見る
3つとも同じ骨組みです。新しい道具が行き渡っても、仕事の進め方が前のままのあいだは成果がほとんど伸びず、進め方を道具に合わせたあとで伸びます。
仕組み
新しい道具が行き渡っても、仕事の進め方が前のままだと、仕上がる量はほとんど伸びません。進め方を道具に合わせて組み替えたあとで、伸び始めます。使う量の伸びと成果の伸びのあいだに、時間の差が出ます。
道具が行き渡ると、仕上がる量はいつ伸びるか。道具を使う量の点が増えても、仕事の進め方が前のままのあいだは仕上がる量のオレンジの点がほとんど増えず、進め方を道具に合わせて組み替えたあとで増える概念図。概念図で、数値ではありません。生産性のパラドックス(Solow、1987年/Brynjolfsson、1993年)の考え方を図にしたものです。
職場の例え
例えです。表計算ソフトで集計するようにしても、結果を印刷して判子を回し、戻った紙を打ち直していれば、月末の締めはほとんど早まりません。同じファイルを画面で見て承認する順に変えると、早まります。
表計算が行き渡ると、月末の締めはいつ早まるか。表計算を使う量の点が増えても、印刷して判子を回すあいだは締めの早さのオレンジの点がほとんど増えず、同じファイルを画面で承認する順に変えると増える概念図。身近な職場に置きかえた例えの概念図です。特定の会社の出来事ではなく、数値もありません。
研究の例
Robert Solowは1987年、コンピューターの時代はどこにでも見えるのに、生産性の統計にだけは見えないと書きました。Brynjolfsson(Communications of the ACM、1993年)は理由の1つに、学習と調整の遅れを挙げました。1990年代に伸びが戻ると、この説明が支持されましたが、その後のITの効果には異論もあります(Acemoglu ほか、2014年)。
コンピューターが行き渡ったあと、生産性はいつ伸びたか。コンピューターへの投資の点が増えても、生産性の伸びのオレンジの点はしばらくほとんど増えず、学習と調整が進んだあとで増える概念図。Solow(1987年)とBrynjolfsson(1993年)、その後の議論をもとにした概念図です。点の数は実際の統計ではありません。
今の AI の例は、下の「この概念・法則でニュースを読む」の記事で読めます。
この概念・法則でニュースを読む
AIを配っても、仕事の組み立てを変えるまで生産性は上がらない
なぜ?AIを配って使う量を増やした会社で、なぜ生産性は上がらず、利用を絞る動きまで出ているのか
この記事からわかることAIの効果を使った量で測らず、入れた仕事の手順を入れる前と並べ、1段を替えただけなら次の段の待ちと直しを数えて組み直す
どんなときに当てはまるか
電気やコンピューターのように多くの仕事に使える新しい技術に、多くの会社が一斉に投資している途中で起きやすい。Brynjolfsson と Hitt は、ITへの投資が組織の変化を補う形で行われたときに、生産性との結び付きを見つけている。
見分ける手がかり
導入した会社の数や使う量は伸びているのに、人あたりの成果や仕事にかかる時間が変わらない。経営者に聞くと、効果はまだ表れていないという答えが多い。
使うときに気をつけたいこと
技術に効果が無いという意味ではない。Solow の言葉は生産性の統計についてのもので、1つの会社の中の効果を直接測ったものではない。1990年代後半より後については、ITを多く使う産業で生産性の伸びが速かった証拠は乏しいとする研究もあり(Acemoglu ほか、2014年)、待てば必ず取り戻せるとも言えない。
この概念・法則の出典と記録
- 最初に観測した日
- 2026-10-14
- 出典
- Robert Solow(New York Times Book Review、1987年7月12日)/Erik Brynjolfsson「The productivity paradox of information technology」(Communications of the ACM、第36巻第12号、1993年)