ソフト開発では、書いたコードを人が確かめてから本体に取り込みます。ハーバード大学の研究者は、700社を超えるソフト開発企業のデータで、コードを書くAIエージェントなどを入れた前後を比べました。比べたのは、書かれるコードの量、課題や機能が解決された割合、確かめにかかる時間です。米メディアArs Technicaが伝えています。

この記事の要点

  • AIエージェントの導入で、書かれるコードは30%増えた
  • 課題や機能の解決率に、統計的に意味のある変化は無い
  • 増えた分は、人がコードを確かめる工程に吸収されている
  • AIに作らせる量を増やす前に、確かめ待ちの山を数える

書く速さを上げると、仕上がる量は増えるか。書く工程が太く確かめる工程が細い管の模型。書く速さを上げるほど確かめる工程の手前に待ちがたまり、仕上がる量は変わらない。動く図は、制約理論の考え方を示す模型です。調査(Ars Technica が伝えた Jellyfish の集計)では、AI導入の後にコードは30%増え、確認の時間は49%延び、解決率は変わりませんでした。

コードは30%増え、確かめる時間は49%延びた

米メディアArs Technicaによると、ハーバード大学の研究者が、開発チームの出来高を測るJellyfishの集計データを分析しました。データは2021年から2026年3月まで、700社を超えるソフト開発企業の、70万人を超える従業員に及びます。

研究者は、各社がAIエージェント(指示を受けて、主に自分でコードを書いて提出するAI)などを取り入れた前後で、数字を比べました。課題の大きさや複雑さの構成は、導入の前後で変わっていないとしています。

項目 AIの導入後の変化
コードの行数 30%増
提出(プルリクエスト)の数 23%増
課題や機能の解決率 統計的に意味のある変化なし
提出から取り込みまでの確認の時間 平均49%増
直しを求められた提出の割合 ほぼ2倍
コードを確かめる従業員の割合 14%増

記事は、この食い違いの理由は、コードを確かめる工程にあると書いています。研究者は、コードを書く段階で上がった効率が「生産の工程の下流にある制約に吸収される」としています。

2026年3月までに80%の企業が何らかのAIによるコードの確認を使っていましたが、確認のコメントでAIエージェントによるものは23.3%でした。記事は、確認の大半はまだ人が担うと見ています。ただし記事は、データの期間のあとも、エージェントの出力は大きく改良されたと断っています。

書くのが速くなったのに、なぜ仕上がるソフトは増えないのか

AIエージェントにコードを書かせれば、ソフトはもっと早く仕上がるはずです。実際に、書かれるコードも提出も増えました。

ところが、仕上がった課題や機能の割合に、はっきりした変化はありません。作る量が増えたのに、出来上がる量が変わらないのはなぜでしょうか。

仕事の流れは、いちばん詰まる工程より速くならない

太い管の途中に細い管があり、細い所の手前に作りかけがたまる。出てくる量は、いちばん細い所で決まる絵
制約理論のイメージ

この形を説明するのが、エリヤフ・ゴールドラットが唱えた制約理論です。工場の生産管理から広まった考え方です。

工程がつながった仕事の出来高は、いちばん処理の遅い工程(制約)で決まる。制約でない工程を速くしても、制約の前に作りかけのものがたまるだけで、全体の出来高は増えない。

料理店で例えると、料理人を増やして皿を倍作れても、出す前に味見をする料理長が1人なら、客席に届く皿の数は料理長の速さで決まります。厨房には、味見を待つ皿が並ぶだけです。

今回の調査で、AIで速くなったのは書く工程でした。その先の確かめる工程で時間がかかるようになり、全体の出来高は伸びていません。速くした工程が、制約ではなかったのです。

AIで書く速さの伸びを、人の確認がそのまま吸収している

報道は、確認の時間が延びた理由や、直しを求められる割合が上がった理由までは伝えていません。それでも数字の並びは、制約理論の見立てと合っています。

確かめる人の割合が増えても、取り込みまでの時間は延びました。AIによる確認もまだ少なく、制約を広げるまでには至っていません。

AIが速くしているのは、主に制約の手前の工程です。

AIに作らせる量を増やす前に、確かめ待ちの山を数える

報道はソフト開発の外の例を伝えていませんが、同じ形はほかの仕事でも起きると考えます。提案書や見積もりもAIで作れますが、出す前に確かめるのは人だからです。

私の会社にも、毎朝AIが下書きまでそろえ、私が読んで承認してから公開する仕事があります。承認するまで1本も出ないので、出る速さは私の読む速さで決まります。

下の手順は研究が試したものではなく、制約理論に沿って組んだものです。作る量を増やす前に、詰まっている工程を見つけます。

  1. AIに作らせている仕事を1つ選びます
  2. 1週間、作り終えた数と確かめ終えた数を数えます
  3. 確かめ待ちが積み上がるなら、作らせる量を確かめられる量に合わせます
  4. 積み上がらないなら、別の工程の前の待ちを数えます

AIで作る量は、確かめられる量より先に増やしません。

読み解きに使った概念・法則

この記事の中心となる概念・法則

制約理論

工程が順につながった仕事では、全体の出来高は、いちばん処理の遅い工程(制約)で決まる。

この記事で取り上げたニュース

その後の関連ニュース

更新の記録

  • 2026-10-12、同じ構造を論文公開サイトarXivでも観測した(月の投稿が2年で約2倍の40,363本になって確認役の手が回らず、10月1日から投稿を1人月2本に制限した。THE DECODER)
  • 2026-10-16、同じ構造をバンク・オブ・アメリカでも観測した(AnthropicのMythosなどのAIが見つけたソフトの欠陥を直すため、外部の契約者1,000人を雇い、第2四半期から社員3,000人と一緒に作業している。THE DECODER)
  • 2026-10-18、同じ構造をAnthropicの社内でも観測した(報告は、Claudeが出す大量の文章を人が読んで整理する必要があり、人の注意と判断が生産性のボトルネックになりつつあるとした。2026年4月の社内調査では、社員の20%が、仕事が作業からClaudeの管理に変わったと答えた。TechCrunch)
  • 2026-10-24、同じ構造をAnthropicの雇用の報告でも観測した(2026年5月以降はAIエージェントの稼働時間が社員を上回り、社員は時間の約22%をClaudeのエージェントの管理に使い、人の注意が新しいボトルネックになったとした。報告に外部の監査は無く、上場前に企業価値を高める狙いだとみる研究者もいる。The Guardian)

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なべ

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なべ

テクノロジーは好きですが、そのものを作る側ではありません。かといって、新しい道具を集めて満足するほうでもない。

何か新しいものが出てきたとき、私が考えるのは「これで何ができるか」より「今のやり方このままでいいんだっけ」のほう。道具が増えるより、やり方ごと作り変えたり、無くしたりするほうが好きです。

AIが来て、人の考え方も、仕事の進め方も変わっています。その変わり方に興味があって自分の仕事で先に試しています。techtech.clubは、そのやってみた結果を置いておく場所です。

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