AIエージェントは、案を出し、出来を評価し、手直しする作業を何時間も繰り返せます。そのあいだ、それまでのやり取りは会話の履歴としてたまっていきます。Microsoft Researchの研究者は、こうしたエージェントが途中で点を伸ばせなくなる理由と、また伸ばすための方法を調べました。米メディアTHE DECODERが伝えています。

この記事の要点

  • 長く動くAIは、計算を足しても点が伸びなくなる
  • たまった会話が、次の案を似た方向へ向けていた
  • 会話を消して枝分けすると、同じ計算量で平均点が66%高い
  • 行き詰まったら、作ったものだけを渡して始め直す

AIの案は、会話を消すまで同じ盆地にとどまる。似た案ほど近くに並ぶ地図の上で、AIが試した案の点は、計算を足しても会話の履歴を縮めても左の盆地の中にとどまり、ファイルを残して会話を消すと、新しい会話の枝が右の盆地でよりよい案を見つける概念図。概念図で、数値ではありません。THE DECODER(2026年10月12日)が伝えた Microsoft Research の研究の説明(似た案を近くに置く地図とアイデアの盆地)をもとに描きました。点の数と位置は、実際の案ではありません。

ファイルを残して会話だけ消すと、AIの点が上がった

THE DECODERによると、Microsoft Researchの研究者は、案を出し、評価し、手直しを繰り返すAIエージェントを調べました。同じエージェントが同じ課題を8回別々に解くと、伸びが止まった点は68.3〜100.0とばらつき、計算を大きく増やしても差は残りました。

似た案を近くに置く地図に並べると、1回の実行の案は、ほとんどいつも狭い範囲にとどまっていました。著者はこの範囲を「アイデアの盆地」と呼び、エージェントは残りの計算の多くを、出来の劣る盆地での手直しに使っていました。会話の履歴をときどき圧縮しても、この傾向は続きました。

研究者が提案したFork-and-Flushは、作業場とファイルを引き継いだまま枝を複数に分け、各枝の会話の履歴を全部消して続けさせる方法です。いちばんよい枝を残し、残りは捨てます。

親の会話を引き継いだ枝は、前の推論が次の手を導くため、同じ盆地に戻りやすいといいます。枝分けせずに会話を消すだけでも、11の課題で結果は約22%よくなりました。1回が数時間から100時間超の13の課題を、同じ計算量で比べた結果は次のとおりです。

やり方 平均点(0〜1にそろえた値) 1本と比べて
1本で続ける 0.47 基準
best-of-4(4本から選ぶ) 0.54 約14.9%高い
Fork-and-Flush(枝分けして会話を消す) 0.78 66.0%高い

計算を足しても伸びないAIが、なぜ会話を消すと伸びるのか

家の鍵が見つからないと、いつもの引き出しやかばんばかり探してしまいます。探す時間を延ばしても、場所が同じなら鍵は出てきません。

10月12日の配信では、AIを複数で組ませても質はほぼ上がらず、費用は最大5.1倍になった試験を届けました。今回も、4本走らせて選ぶだけの伸びは限られていました。計算を足しても伸びが止まったAIが、会話を消すと伸びました。

前に解けたやり方が、もっと短い道を見えなくする

まっすぐの近道があるのに、人は何度も通って慣れた曲がりくねった道を選んで進んでいく絵
構え効果のイメージ

当てはまるのは、Abraham Luchinsが1942年に水がめの問題で示した構え効果(アインシュテルング効果)です。

同じやり方で何度か解けると、そのやり方への構えができます。すると、もっと短いやり方で解ける問題でも、前のやり方で解こうとします。

実験では、練習の5問を長い手順で解いた組の多くが、短い手順でも解ける問題で長い手順を使いました。練習しなかった組は、ほぼ全員が短い手順で解いています。

人の実験で構えを生んだのは練習の繰り返しで、AIの研究で次の手を導いたのは会話に残った前の推論でした。引き金は違っても、前の考えが次の探し方を決める形は同じです。練習しなかった組が短い手順を選べたことは、会話を消した枝が別の盆地に移れたことと重なります。

足した計算が、同じ盆地の手直しに使われている

報道は、AIが人と同じ理由で同じ案に戻るのかも、履歴をどう圧縮したのかも伝えていません。それでも事実を並べると、次の順で行き詰まると読めます。

  1. 前の推論が、会話の履歴に残る
  2. 次の案が、前と似た方向に向く
  3. 足した計算が、同じ盆地の手直しに使われる

圧縮しても続いたのは、縮めても前の推論の向きが残るためと考えます。研究の対象は長く動くAIエージェントで、ふだんのAIとの会話や人のチームは調べていません。それでもLuchinsの実験とこの研究に照らすと、同じやり方を重ねたチームや長いAIとの会話にも同じ形が出ると考えます。

行き詰まりの元は計算の量ではなく、残った経緯の向きにあります。

手直しが止まったら、作ったものだけを渡して始め直す

行き詰まったAIに計算を足しても、同じ盆地での手直しが増えるだけです。縮めた会話を渡すと前の向きも渡るので、次の順で分けます。

  1. 手直しで出来が上がり続けるなら、そのまま続ける
  2. 上がらなくなったら、作ったファイルと結果を1か所にまとめる
  3. AIなら新しい会話を開き、要約は付けずにまとめたものだけを渡す
  4. 人なら、経緯を知らない人にまとめたものだけを見せる
  5. 出てきた案を元の案と同じ物差しで比べ、よいほうを残す

読み解きに使った概念・法則

この記事の中心となる概念・法則

構え効果

同じやり方で何度か問題が解けると、そのやり方で解こうとする構えができる。

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なべ

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なべ

テクノロジーは好きですが、そのものを作る側ではありません。かといって、新しい道具を集めて満足するほうでもない。

何か新しいものが出てきたとき、私が考えるのは「これで何ができるか」より「今のやり方このままでいいんだっけ」のほう。道具が増えるより、やり方ごと作り変えたり、無くしたりするほうが好きです。

AIが来て、人の考え方も、仕事の進め方も変わっています。その変わり方に興味があって自分の仕事で先に試しています。techtech.clubは、そのやってみた結果を置いておく場所です。

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