THE DECODERは、全米経済研究所(NBER)の論文を報じました。米国の知財の法律事務所11社で、特許弁護士133人を3ヶ月調べた試験です。AIを使える組だけがAIで特許の書類を作り、そのあと全員がAIなしで、既にある書類を見直しました。経験7年未満を若手としています。

この記事の要点

  • AIで特許の書類を作ると、若手ほど評価が上がった
  • AIなしの見直しで優位が残ったのは、ベテランだけ
  • 練習中に見える出来の伸びは、残る力の伸びを表さない
  • 若手の育ちは、AIを外して直せるかで確かめる

AIを外すと、若手とベテランで何が分かれたか。若手とベテランで、AIを使った組と使わなかった組の評価を棒で比べた概念図。AIで書類を作る課題では若手のAIを使った組の棒が大きく伸びるが、AIなしで見直す課題では使わなかった組と同じ高さになり、ベテランだけAIを使った組の棒が高いまま残る。。概念図で、数値ではありません。THE DECODER(2026年10月24日)が報じたNBERの論文の結果の向きを描きました。棒の高さは模型で、課題ごとに使わなかった組の高さをそろえています。

AIなしの見直しで優位が残ったのは、ベテランの弁護士だけ

THE DECODERによると、論文は、AIを使った仕事の出来と、そのあとAIを外したときの本人の判断を分けて測りました。参加者の3分の2がGoogleの未公開のAIを使え、残りはAIなしで同じ課題に取り組みました。書類を作る課題と見直す課題では、結果が逆になりました。

課題 AIを使えるか 若手(7年未満) ベテラン
特許の書類を作る AIの組だけ 大きく伸びた 若手より小さい
既にある書類を見直す 全員使えない 差が出なかった 優位が残った

表の伸びと差は、AIを使った組を使わなかった組と比べたものです。見直しでは、AIを使った組の若手は中ほどの評価が減り、低い評価と良い評価がともに増えました。THE DECODERは、AIで最も得をした弁護士が、あとまで残る力を最も得なかった人と同じだったとまとめています。

補足の分析では、ベテランは欠陥のある書類を組み立て直し、法の原則に沿って直す例が多くありました。若手は重い欠陥に気づいても直さず、AIへの指示のようなメモを残す例が多くありました。

この傾向はAIを使わなかった組にもあり、著者はAIで付いた癖ではなく、若手の段階の不足とみています。著者は、人数の少なさと、専門の力が育つ年月に比べて3ヶ月が短いことを限界に挙げています。

AIで一番伸びた若手に、なぜ伸びた分が残らないのか

当サイトが10月21日に届けたニュースでは、若手の決まった仕事をAIで減らすと、判断力を育てる場が失われるという指摘がありました。今回の若手は、書類作りの課題をAIと一緒にこなしています。それでも、AIで最も伸びた若手に、AIを外した判断の差は残りませんでした。

練習中に見える出来と、あとまで残る力は別々に動く

支え棒で高く伸びた草は根が浅く、支えのない草は背が低くても根が長く伸びている。見える出来とあとまで残る力を、背丈と根に見立てた絵
学習とパフォーマンスの区別のイメージ

説明したいのは、AIで上がった出来が、なぜAIを外すと残らないのかです。学習とパフォーマンスの区別は、練習中に見える出来と、あとまで残る力を分けて見る考え方で、心理学者のSoderstromとBjorkが2015年の論文でまとめました。

解答を横に開いたまま問題集を解くと、丸はたくさん付きます。けれど解答を閉じたテストでは、その丸の数ほどは解けません。

このニュースでは、AIを使った書類作りの評価が練習中の出来に、AIなしの見直しの評価があとまで残る力にあたります。若手は出来が最も伸びたのに、残る力はAIを使わなかった若手と変わらず、出来の伸びが力の伸びを表していませんでした。

AIで書類は整っても、欠陥を直す若手の判断は埋まらなかった

報道は、AIと書類を作る間に、若手がAIの案をどこまで自分で直していたかを伝えていません。補足の分析に照らすと、若手に足りないのは欠陥に気づく力より、気づいた欠陥を自分で直す判断で、AIを使っても埋まっていません。研究者の見方は次のとおりです。

もとの専門の力が、AIを使った練習を長く続く力に変える前提である可能性がある

見える出来がAIで先に整うほど、直す判断が育っていないことは、AIを外すまで見えません。

若手の育ちは、AIを外した見直しで直せるかまで確かめる

私は、AIに頼む前に、まず自分で考えて文書にすることを基本にしています。前提が抜けたまま頼み、やり直しになったことがあるためです。若手にAIを使わせるなら、次の順で育ちを確かめます。

  1. AIを使った成果物の評価と、育ちの評価を分けて残す
  2. ときどき、AIなしで、既にある書類の見直しを頼む
  3. 欠陥を見つけて直し、理由まで書けたら、AIで量を任せる
  4. 見つけるだけで直せないなら、AIの前に自分で直す回を置く

報道は、どんな練習なら若手に力が残るかを伝えていません。最後の手順は、土台が前提だという研究者の見方に照らしたものです。

読み解きに使った概念・法則

この記事の中心となる概念・法則

学習とパフォーマンスの区別

練習している間に見える出来(パフォーマンス)と、あとまで残る力(学習)は別のもので、練習中の出来は、力が身についたかの当てにならないことが多い、という考え方。

この記事で取り上げたニュース

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なべ

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なべ

テクノロジーは好きですが、そのものを作る側ではありません。かといって、新しい道具を集めて満足するほうでもない。

何か新しいものが出てきたとき、私が考えるのは「これで何ができるか」より「今のやり方このままでいいんだっけ」のほう。道具が増えるより、やり方ごと作り変えたり、無くしたりするほうが好きです。

AIが来て、人の考え方も、仕事の進め方も変わっています。その変わり方に興味があって自分の仕事で先に試しています。techtech.clubは、そのやってみた結果を置いておく場所です。

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