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AIで人を切る企業と、AIに切られる人の間にある「不在」——法律事務所が最大1,000人削減する構造
2026.02.12

AIで人を切る企業と、AIに切られる人の間にある「不在」——法律事務所が最大1,000人削減する構造

AIで人を切る企業と、AIに切られる人の間にある「不在」——法律事務所700人削減が映す構造

2025年、AIを理由に掲げた解雇は米国だけで約55,000件に達した。だが、その裏で「AIウォッシング」——AIの導入実態が伴わないまま、テクノロジーを口実にした人員削減——が広がっている。

世界第9位の売上を誇る法律事務所ベーカー&マッケンジーが最大1,000人の支援スタッフを削減すると発表した今、問われているのは「AIが仕事を奪う」という物語の信憑性そのものだ。

Executive Brief

30 SEC READ
FACT
ベーカー&マッケンジー法律事務所がAI活用を理由にグローバルで最大約1,000人の業務支援スタッフを削減すると発表
IMPACT
法律業界に留まらず、ホワイトカラーの支援職全体にAIを名目とした構造的人員削減が波及する可能性がある
INSIGHT
AIが実際に仕事を代替しているのか、企業がAIを「解雇の免罪符」として利用しているのか——その境界線が曖昧なまま、労働市場の再編が進行している。

Contents ——公式発表・一次情報

Summary ——何が起きている?

  • ベーカー&マッケンジー法律事務所はAI活用を含む業務見直しを理由に、リサーチ・マーケティング・秘書業務など支援スタッフの最大10%(600〜1,000人規模)を削減すると発表した
  • 対象は弁護士ではなく業務支援職であり、ロンドン・ベルファスト・オフショアセンターを含むグローバル拠点に及ぶ
  • 2025年の英国法律業界ではクリフォードチャンス、フレッシュフィールズ、Irwin Mitchellも同様にAIを理由としたパラリーガル・支援職の削減を実施している
  • Challenger, Gray & Christmasの報告によれば、2025年に米国でAIを理由に掲げた解雇は約54,836件、2023年の追跡開始以降の累計は71,825件に達した

Perspective ——TECHTECH.の視点

ベーカー&マッケンジー法律事務所が切ったのは弁護士ではない。リサーチャー、秘書、マーケティング——つまり「弁護士が弁護士でいるために必要な人々」だ。

この構図は法律業界に限らない。今回の構図ではAIが代替するのは意思決定者ではなく、意思決定を支える人間であり、効率化の果実を得る者と、その代償を払う者は最初から異なっている。

同時に見逃せないのは、Salesforceが4,000人を削減した後にAIの能力を「過信していた」と報じられており、ウォートン・スクールのピーター・カッペリ教授が「AIで大規模に人員を代替できた企業はほとんど存在しない」と指摘している事実だ。

「AIで人を切る」と宣言する企業と、「AIに切られる」支援スタッフの間には、肝心のAIが不在なのだ。存在するのは「AIがいずれ代替するだろう」という期待だけであり、その期待を根拠に、今日、人間の雇用が打ち切られている。

企業がAIを理由に人を切るとき、そこにあるのはテクノロジーの到達ではなく、テクノロジーの「期待」を根拠にした経営判断かもしれない。AIウォッシングという言葉が生まれた背景には、「AIで効率化した」と語る方が「業績不振で人を切る」と語るよりも、投資家にとって心地よいという資本市場の力学がある。

もちろん、法律事務所のリサーチ業務やドキュメントレビューは、現時点でAIが最も実用的に機能する領域の一つでもある。ベーカー&マッケンジーの判断が「AIウォッシング」なのか、業界構造の実質的な転換なのかは、まだ判断できない。重要なのは、その判断がつかないまま人が切られているという事実だ。

効率化の恩恵を受ける弁護士と、効率化の代償を払う支援スタッフの間に、同じ「AI時代」の物語は成立するのか
John
Thought by John
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新潮社
アンナ・レンブケ
スマホ、SNS、ポルノ、ゲームなど過剰な快楽による現代特有の依存症メカニズムをスタンフォード大の精神科医が解説
推薦理由
依存と報酬系のメカニズムを解明した本書は、テクノロジーへの「期待の依存」——実態なき約束に組織ごと賭ける構造を理解する補助線になる。

Context Timeline ——報道記事

2026.02.12 00:48
abovethelaw.com
ベーカー・マッケンジーは大規模レイオフの原因をAIに帰したが、問題はもっと複雑だ
2026.02.12 00:25
futurism.com
法律事務所、AIへの転換で数百人の従業員を解雇
John
John

テクノロジーと人間の境界を見つめ続けている。

学生起業、プロダクト開発、会社経営。ひと通りやった。一度は「テクノロジーで世界を変える」と本気で信じ、そして挫折した。

今は点ではなく線で見ることを心がけている。個別のニュースより、その背後にある力学。「何が起きたか」より「なぜ今これが起きているのか」。

正解は急がない。煽りもしない。ただ、見逃してはいけない変化には、静かに立場を取る。

足りないのは、専門家じゃない。
問い続ける力だ。
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