AIで人を切る企業と、AIに切られる人の間にある「不在」——法律事務所が最大1,000人削減する構造


ZOO, inc. CEO / 毎日テクノロジーを追い、人間の可能性が拡張できるトピックスを探求している。
2025年、AIを理由に掲げた解雇は米国だけで約55,000件に達した。だが、その裏で「AIウォッシング」——AIの導入実態が伴わないまま、テクノロジーを口実にした人員削減——が広がっている。
世界第9位の売上を誇る法律事務所ベーカー&マッケンジーが最大1,000人の支援スタッフを削減すると発表した今、問われているのは「AIが仕事を奪う」という物語の信憑性そのものだ。
この記事の要約
TechTechの視点
ベーカー&マッケンジー法律事務所が切ったのは弁護士ではない。リサーチャー、秘書、マーケティング——つまり「弁護士が弁護士でいるために必要な人々」だ。
この構図は法律業界に限らない。今回の構図ではAIが代替するのは意思決定者ではなく、意思決定を支える人間であり、効率化の果実を得る者と、その代償を払う者は最初から異なっている。
同時に見逃せないのは、Salesforceが4,000人を削減した後にAIの能力を「過信していた」と報じられており、ウォートン・スクールのピーター・カッペリ教授が「AIで大規模に人員を代替できた企業はほとんど存在しない」と指摘している事実だ。
「AIで人を切る」と宣言する企業と、「AIに切られる」支援スタッフの間には、肝心のAIが不在なのだ。存在するのは「AIがいずれ代替するだろう」という期待だけであり、その期待を根拠に、今日、人間の雇用が打ち切られている。
企業がAIを理由に人を切るとき、そこにあるのはテクノロジーの到達ではなく、テクノロジーの「期待」を根拠にした経営判断かもしれない。AIウォッシングという言葉が生まれた背景には、「AIで効率化した」と語る方が「業績不振で人を切る」と語るよりも、投資家にとって心地よいという資本市場の力学がある。
もちろん、法律事務所のリサーチ業務やドキュメントレビューは、現時点でAIが最も実用的に機能する領域の一つでもある。ベーカー&マッケンジーの判断が「AIウォッシング」なのか、業界構造の実質的な転換なのかは、まだ判断できない。重要なのは、その判断がつかないまま人が切られているという事実だ。

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