できるようになること
30分後の状態:
- 自分の業務フローから「ツール化すべきポイント」を特定する判断基準を持てている
- 工数・インパクト・影響度の3軸で「作るもの」を選べるようになっている
その先:
- Claude Opus 4.6を使って、自分のWordPressサイトに業務効率化ツールを実装できる
- 同じ判断プロセスを、WordPress以外の業務改善にも応用できる
最終アウトプット
今回作ったのは、WordPressの投稿編集画面のサイドバーに設置する「買い目ジェネレーター」だ。競馬予測記事を運営するサイトで、記事作成時の買い目入力と点数計算を自動化するツールである。

馬券種別(単勝・三連単など)を選ぶと、対応する買い方(流し・BOXなど)が自動でフィルタされる。出走頭数を選択するとチェックボックスが表示され、馬番を選ぶだけで点数がリアルタイムに計算される。金額を入れれば総額も自動算出。「コピー」ボタンで出力テキストをクリップボードにコピーし、そのまま記事に貼り付けられる。


記事データやWordPressのデータベースには一切影響しない。ただのコピペツールだ。この「ただの」が重要なのだが、それは後述する。
結論
先に結論を述べる。AIで業務ツールを作るとき、最も重要なのは「何を作るか」の判断だ。そしてその判断基準は「何が作れるか」ではなく、「業務がどう変わるか」にある。
これまで業務改善には、エンジニアや外注先が必要だった。見積もりを取り、仕様を伝え、テストして、修正して——その過程だけで数週間かかることもあった。AIはこのプロセスを一人で完結させる力を持っている。だからこそ、「何を作るか」の判断は自分でしなければならない。エンジニアに相談して止めてもらう、という安全弁がないからだ。
今回の事例では、最初に検討した「記事の入力欄を自動化して、値を入れるだけで記事が完成する仕組み」を見送り、「サイドバーのコピペツール」に縮小した。結果として、実装は1回のやり取りで完了し、作業時間は約40%削減できた。
この方法が向いているのは以下のような人だ。
- WordPressで繰り返し発生する入力作業を抱えている
- 「もっと楽にできるはず」と感じているが、何を自動化すべきかわからない
- AIでコードを書けることは知っているが、本番環境を壊すのが怖い
一方、この方法では対応しきれないケースもある。
- データベースとの連携が必須な業務改善。今回のジェネレーターはコピペなので、データの一元管理にはならない
- 複数人が同時に使う業務フロー。シングルユーザー向けの効率化が前提
- すでに業務フローが完成している場合。壊す必要はない
具体的な使用方法と手順
全体の流れを示す。
- 業務フローを洗い出し、課題を特定する
- 解決方法を検討し、実装範囲を決める
- Claudeに情報を提供し、解決案を出させる
- 要件を詰めて実装する(人間⇄AI)
- WordPressに設置してテストする
業務フローを洗い出し、課題を特定する
最初にやることは、AIに何かを作らせることではない。自分の業務を観察することだ。
今回のケースでは、競馬予測サイトのライターに実際の作業の様子を見せてもらい、業務フローを洗い出した。
洗い出した業務フロー(記事作成):
- その日の全レースの予測を行う
- 各レースの本命馬とコメントを書く
- 買い目(馬券種別、軸馬、相手馬)を決める
- 点数を計算する
- 金額を決める
- 上記をテキストとして整形し、記事に入力する
- 記事を公開する
特定した課題:
工程4〜6に時間がかかっていた。具体的には、三連複フォーメーションや馬連流しの点数を毎回手計算し、買い目を手書きで整形して記事に入力する作業だ。1レースあたり数分でも、12レース分となると積み重なる。
本来、ここに時間をかける意味はない。予測と判断(工程1〜3)にこそ時間を使うべきであって、計算と転記は定型作業だ。
ここが重要だ。 この課題は、実際に作業を観察したから見えた。「たぶん面倒だろう」という予測ではなく、「実際に面倒だった」という事実がある。
楽をする発想は、最初からは出てこない。手を動かして苦労を知ることで、初めて「ここを改善すべきだ」というポイントの解像度が上がる。
解決方法を検討し、実装範囲を決める
課題が見えたら、次は「どう解決するか」ではなく「どこまで解決するか」を考える。
最初に検討した案:カスタムフィールド連携
記事のデータ構造ごとテンプレート化する方法だ。プラグインを使ってレースデータを管理する仕組みを作り、入力画面と自動計算を実装。記事作成はフィールドに値を入れるだけで完了する。
インパクトは大きい。理想形ではある。しかし、以下の理由で見送った。
- 記事データ(データベース)に直接影響する。万が一のリスクが高い
- 実装コストが大きい。WordPressの標準機能を拡張する方法 or プラグインとプログラムを組み合わせる方法、いずれも構成が複雑
- そもそもこの解決策が正しいかわからない。ここに工数をかけるべきか
採用した案:サイドバーのジェネレーター
投稿編集画面のサイドバーに、買い目のテキストを生成してコピーできるミニツールを設置する方法だ。
- データベースに一切影響しない。壊れようがない
- Snippetsプラグインに1つのコードを貼るだけで実装完了
- 「計算と転記」という課題の核だけを解決する
業務改善で「何を作るか」を判断するとき、私は3つの軸で考える。これはWordPressに限らない。日報作成の効率化でも、見積もりの自動計算でも、同じフレームワークが使える。
自分の業務で試すなら、こう問いかけてみてほしい。
- 工数:これを作るのに、どれくらいの時間と手間がかかるか
- インパクト:完成したら、業務がどれだけ変わるか(時間短縮、ミス削減、ストレス軽減)
- 影響度:もし不具合が起きたとき、どこまで影響するか
| 軸 | カスタムフィールド連携 | ジェネレーター |
| 工数 | 大(複数ファイル、テスト工数大) | 小(1スニペット) |
| インパクト | 大(記事作成を完全自動化) | 中(計算と転記の自動化) |
| 影響度(リスク) | 高(記事データへの影響) | 低(コピペツール) |
工数が小さく、インパクトが中程度で、リスクが低い。これが「まず作るべきもの」だ。完璧を目指すのではなく、最小の実装で課題の核を解決する。
Claudeに情報を提供し、解決案を出させる
ここからClaudeの出番だ。ただし、いきなり「これを作ってくれ」とは言わない。
まずClaudeに以下の情報を渡す。
- 目的:記事投稿の効率化
- 業務フロー:工程1で洗い出した内容
- 課題:点数計算と買い目の手入力に時間がかかっている
- 解決の方向性:入力を選択式にし、点数を自動計算したい
Claudeに渡す情報は、以下のような形で整理した。
以下の業務について、効率化の方法を提案してほしい。
【目的】
競馬予測記事の作成を効率化したい【現状の業務フロー】
1. 全レースの予測を行う
2. 各レースの本命馬とコメントを書く
3. 買い目(馬券種別、軸馬、相手馬)を決める
4. 点数を手計算する
5. 金額を決める
6. 上記をテキストに整形して記事に入力する【課題】
工程4〜6に時間がかかっている。点数の手計算と、買い目テキストの手入力が1レースあたり数分、12レース分で積み重なる。【環境】
WordPress(投稿タイプ:通常のpost)まずは解決案を提案してほしい。具体的な実装方法はまだ決めていない。
ポイントは「こう作ってほしい」と指定しないことだ。「やりたいこと」は伝えずに、まずは解決案を提案してもらう。
なぜか。自分が思いついていない、もっと良い方法が出てくる可能性があるからだ。先入観を与えずにAIの提案を引き出す。もし自分の案より良いものが出なければ、そこで初めて自分の案を提示してレビューしてもらう。
今回、Claudeはカスタムフィールド連携やGutenbergブロックなど、工程2で検討した案と同様の提案を返してきた。それ自体は正しい提案だが、先に述べた理由で見送り、ジェネレーター案を提示した。
そして、今回は「Claude Opus 4.6」を使った。理由は、AIが人間に対して 迎合しない。忖度しない。「その案はやめたほうがいい」と言えるAIだからだ。
今回はジェネレーター案に対して否定はなく、「いい判断だと思う」という評価だった。逆に言えば、もしこの案に問題があれば、Claudeは止めてくれたはずだ。この信頼感が現時点で私がClaudeを使う理由の一つでもある。
要件を詰めて実装する(人間⇄AI)
方針が決まったらClaudeと要件を詰める。今回確認したのは以下の点だ。
- 表示位置:投稿編集画面のサイドバー(サイドバーのパネル)
- 表示条件:全投稿タイプで表示
- 金額出力:各金額入力→総額自動計算
- 実装方法:WordPressプラグイン「Snippets」にコードを登録

実装にあたって伝えた「やりたいこと」は、以下の2点だけだ。
- 馬券種別・買い方・出走頭数をドロップダウンで選択し、馬番をチェックボックスで選ぶと、点数が自動計算されること
- 出力テキストをコピーボタンで記事に貼り付けられること
これだけで、正常に動作するコードが1回で出てきた。 エラーなし、バグなし、仕様バグもなし。
実現された機能は以下の通り。
- 馬券種別に応じた買い方の自動フィルタ(単勝を選ぶと「通常」のみに制限される等)
- 出走頭数に応じたチェックボックスの動的生成
- 馬券種別×買い方×選択馬番からの組み合わせ点数自動計算
- 各金額×点数の総額リアルタイム計算
- フォーマット済みテキストのワンクリックコピー

WordPressに設置してテストする
Snippetsプラグインを開き、新規スニペットを作成し、Claudeが出力したコードをそのまま貼り付けて有効化する。これで完了だ。

投稿編集画面を開くと、サイドバーに「買い目ジェネレーター」が表示される。三連単BOXで6頭選べば120点と即座に計算され、金額が自動で出る。

コピーボタンを押せば、記事にそのまま貼り付けられるテキストがクリップボードに入る。
テスト結果は問題なし。1回のアウトプットで、想定通りに動作した。
ポイントは、このツールがWordPressのデータベースに一切触れていないことだ。 あくまでサイドバーに表示されるブラウザ上で動く計算ツールであり、投稿データとは独立している。だから壊しようがない。この「影響範囲の小ささ」が、試しやすさに直結する。
評価

編集者あとがき
正直に書く。最初はもっと壮大なものを作ろうとしていた。
カスタムフィールドでレースデータを構造化し、Repeater Fieldで複数レースを管理し、フロント表示も自動出力する。記事作成は値を入れるだけで完了する——という理想形だ。
Claudeと仕様を詰めていく中で、Gutenbergブロック案が出て、Repeater+JS案が出て、PHPファイルの配置場所まで議論していた。
そこで立ち止まった。
「これ、本当に今やるべきか」と。最初の業務効率化ステップで記事データに影響する実装に時間をかけるのは合理的ではない。もっと小さく始められないか。
結果がジェネレーターだ。データベースに触れない、ただのコピペツール。これで作業時間が40%減った。
ここから得た学びは2つある。
1つ目。AIで何でも作れるからといって、作りすぎないこと。工数とインパクトと影響度を考えて、作るものを見極める。AIは手段でしかない。問うべきは「何が作れるか」ではなく「業務がどう変わるか」だ。
2つ目。楽をする発想は、最初からは出てこない。実際に手作業でやってみて、苦労があるからこそ「ここを自動化すべきだ」とわかる。最初から予測で「面倒そうだから自動化しよう」では、改善のポイントがずれる可能性がある。まず自分でやる。あるいは、実際にやっている人の作業を観察する。苦労を自分ごとにしてから、AIの出番だ。
この判断プロセスは、WordPress以外にも使える。
日報作成、見積もり計算、請求書のフォーマット統一——業務フローを分解して、繰り返し・計算・転記が発生するポイントを見つけ、最小の実装で解決する。Claude Opus 4.6はそのパートナーとして申し分ない。
次に試したいのは、このジェネレーターの出力を記事テンプレートに直接流し込む仕組みだ。ただしそれは、サイト運営が軌道に乗ってからでいい。今はこれで十分機能している。
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