「おすすめのノートパソコン」で検索し、上位の比較記事を開く。1位を信じて買う。けれどその順位は、メーカーがお金を払って作らせたものかもしれない。検索の世界では、その程度のことは当たり前だった。

いま同じ手口がAIの答えに移っている。Redditに大量投稿してChatGPTやGoogleのAI検索に拾わせる業者が現れ、その「AI最適化」を商う企業が、約340億円とも報じられる額で買収された。

SEOとAIで違うのは、もう「このサイトは信用しない」と読者が選り分ける余地が残っていないこと。検索には「間」があり、AIはダイレクトに一対一の関係になる。

事実 何が起きたか

Redditのbiohackers運営が、ペプチド業者によるAI誘導目的の投稿を理由に新規投稿を禁止。同時期、AI検索最適化企業ScrunchをSitecoreが買収(買収額は約340億円と報じられる)。

読み解き なぜ重要か

読者はサイト単位で情報を選別できず、AIが統合した答えを丸ごと受け取る側になる。

影響 何が変わるか

検索のSEOが「AIの答えの最適化(AEO/GEO)」へ移り、操作対象がランキングから単一の答えへ変わる。

AIをハックする者より、AIを全知と信じる自分のほうが危ない

検索は「誰が得をするか」の20年だった

Redditに仕込まれた言葉がAIの答えになる。SEOの歴史がAI検索に移植されている

正直に書くと、これは自分の本業の話になる。10年ほどメディアの世界にいて、SEO(検索エンジン最適化)で月間300万PVまで伸ばした。その過程で、検索という仕組みの裏側はだいたい見てきた。

検索には三者の思惑がある。情報を探す人、Google、そして記事を出す側(パブリッシャー)。Googleは「検索者のためになるコンテンツを」と言い続けるが、出す側はローコストで上位を取りたい。だから手は打つ。昔は自作自演のリンクで順位を吊り上げたり、キーワードを文章に詰め込んだりすれば順位が上がったが、検索者の体験は悪かった。情報を探しているのに、出す側に都合のいい情報しか出てこない時代があった。

またここで第4の思惑者も出てくる。「おすすめのノートパソコンランキング」で検索したときの上位記事で、メーカーはお金を出して、記事内のランキング順位を動かしにくる。メーカーと記事を出す側はWin-Win、でも検索者から見ればそれは操作された順位。とはいえ「おすすめ」と書いてある以上、出す側が勝手におすすめしているだけで、正解があるわけでもない。完全な黒とも言いきれない。こういう思惑が常にうごめいているのがSEOという世界だった。

操作する側は、いつの時代もいる

Redditに仕込まれた言葉がAIの答えになる。SEOの歴史がAI検索に移植されている

今回起きていることは、構図としては同じだ。Redditに業者が投稿を仕込み、AIに拾わせて「答え」を書き換えにいく。GEO(生成エンジン最適化)を商うScrunchという会社が約340億円とも言われる額で買われ、AIの答えに自社を映り込ませる技術が一つの産業になりつつある。

正直に言えば、この「操作する側」自体には、自分はあまり驚いていない。利益がある限り、操作しにくる者は必ずいる。SEOで20年起きてきたことが、舞台をAIに移しただけ。やる側を倫理で責めても、構造がある以上また別の誰かが出てくる。彼らはむしろ、起きている変化にあやかっているだけにも見える。

検索とAIの違いは、「間」が消えたこと

Redditに仕込まれた言葉がAIの答えになる。SEOの歴史がAI検索に移植されている

引っかかるのは、操作する側ではなく、受け取る側——つまり自分たち(情報を探している者)の構えのほうだ。

検索には「間」があった。複数のサイトが並び、読者は「このサイトはだめだ」「ここは参考にならない」とサイト単位で選り分けていた。その選別の繰り返しが経験になり、知識になり、人は情報の扱いが少しずつうまくなっていったと思う。

AIにはその「間」がない。並ぶのは複数のサイトではなく、統合された一つの答え。そこにいるのは「AIと私」だけ。どのサイトを信じるかを選ぶ足場が、最初から消えている。だから業者がうまくAIに吐き出させた情報は、選別を経ずにそのまま「私の正解」になる。検索して記事を眺めていたときより、選択や判断そのものが静かに侵食されているのかもしれない。

人間は怠惰だから、慣れたものを疑わない

Redditに仕込まれた言葉がAIの答えになる。SEOの歴史がAI検索に移植されている

自分は、人間は基本的に怠惰だと思っている。サボれるならサボりたいし、慣れたものは疑わない。これは良くも悪くも働く。AIに慣れると、もうその答えを疑わなくなる。ひと昔前は、テレビや新聞が言えば、それはほぼそのまま事実として受け取られていた。今は「どの番組が、どの新聞が言っているか」を一拍置いて見る人が増えた。当時の「当たり前」は、時代が進めば変わってきた。今のAIに対する「便利だし正しい」も、将来の当たり前ではないと思う。

ここで効くのは、たぶん「AIも完璧ではない」という一点だ。人に相談するとき、私たちは無意識に相手を全知だとは思っていない。だから誰にでも何でも聞くわけではないし、聞いても答えが出ないこともあると受け入れている。それが人対人で起きていること。同じ構えをAIにも持てれば、AIが中立かどうか、正しいかどうかを巡る議論は、そこまで重くなくなる気もしている。問題は、全知の神のように扱ってしまうこと、あるいはそう思っていなくても、答えに慣れて疑わなくなることのほうにある。

→ 関連して、AI生成が広がったWebが「嘘」ではなく漂白された明るさに偏り始めた話も、媒介される情報の質という同じ筋にある。

ただ、全部を疑えとは言わない。情報は無限にあって、裏を取り続ければ脳が先に疲れる。調べただけで終わったり、面倒になって最初に見たものを買ったりする。だから自分は線を引いている。健康・お金・人生の選択のように、後戻りが難しい領域だけは裏を読む。それ以外は70点出せれば手を打つ。AIを開く前に「これも誰かに書かせた答えかもしれない」と考えてみる。誰が書かせたのかを毎回追う必要はない。追うべき領域を、自分の中で決めておくだけでいい。

考える問い

  • あなたがAIに聞いて返ってきた答えを、最後に「裏を取った」のはいつか。
  • 検索で「このサイトは信用しない」と判断してきた経験を、AIに対しても使えているか。
  • 健康・お金・キャリアのうち、AIの答えを鵜呑みにして決めた選択はないか。
  • AIが完璧ではないと頭でわかっていても、便利さに慣れて疑わなくなっていないか。
  • あなたにとって「裏を取るべき領域」と「70点で手を打つ領域」の線はどこにあるか。

報道記事・ソース

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ジョン

techtech.club 編集長。メディアで起業し、元はスタートアップのプロダクトマネージャー。一度テクノロジーに賭けて挫折した。その経験がいまの生き方や考え方、事業の起点になっている。ここで書くのは答えではない。投資・キャリア・事業など専門家でなくても自分の頭で判断するための材料と視点。読者に教えるのではなく、一緒に考える側にいたい。