2025年、AIを理由に掲げた解雇は米国だけで約55,000件に達した。だが、その裏で「AIウォッシング」——AIの導入実態が伴わないまま、テクノロジーを口実にした人員削減——が広がっている。

世界第9位の売上を誇る法律事務所ベーカー&マッケンジーが最大1,000人の支援スタッフを削減すると発表した今、問われているのは「AIが仕事を奪う」という物語の信憑性そのものだ。

事実 何が起きたか

ベーカー&マッケンジー法律事務所がAI活用を理由にグローバルで最大約1,000人の業務支援スタッフを削減すると発表

読み解き なぜ重要か

AIが実際に仕事を代替しているのか、企業がAIを「解雇の免罪符」として利用しているのか——その境界線が曖昧なまま、労働市場の再編が進行している。

影響 何が変わるか

法律業界に留まらず、ホワイトカラーの支援職全体にAIを名目とした構造的人員削減が波及する可能性がある

Overview

  • ベーカー&マッケンジー法律事務所はAI活用を含む業務見直しを理由に、リサーチ・マーケティング・秘書業務など支援スタッフの最大10%(600〜1,000人規模)を削減すると発表した
  • 対象は弁護士ではなく業務支援職であり、ロンドン・ベルファスト・オフショアセンターを含むグローバル拠点に及ぶ
  • 2025年の英国法律業界ではクリフォードチャンス、フレッシュフィールズ、Irwin Mitchellも同様にAIを理由としたパラリーガル・支援職の削減を実施している
  • Challenger, Gray & Christmasの報告によれば、2025年に米国でAIを理由に掲げた解雇は約54,836件、2023年の追跡開始以降の累計は71,825件に達した

ベーカー&マッケンジー法律事務所が切ったのは弁護士ではない。リサーチャー、秘書、マーケティング——つまり「弁護士が弁護士でいるために必要な人々」だ。

この構図は法律業界に限らない。今回の構図ではAIが代替するのは意思決定者ではなく、意思決定を支える人間であり、効率化の果実を得る者と、その代償を払う者は最初から異なっている。

同時に見逃せないのは、Salesforceが4,000人を削減した後にAIの能力を「過信していた」と報じられており、ウォートン・スクールのピーター・カッペリ教授が「AIで大規模に人員を代替できた企業はほとんど存在しない」と指摘している事実だ。

「AIで人を切る」と宣言する企業と、「AIに切られる」支援スタッフの間には、肝心のAIが不在なのだ。存在するのは「AIがいずれ代替するだろう」という期待だけであり、その期待を根拠に、今日、人間の雇用が打ち切られている。

企業がAIを理由に人を切るとき、そこにあるのはテクノロジーの到達ではなく、テクノロジーの「期待」を根拠にした経営判断かもしれない。AIウォッシングという言葉が生まれた背景には、「AIで効率化した」と語る方が「業績不振で人を切る」と語るよりも、投資家にとって心地よいという資本市場の力学がある。

もちろん、法律事務所のリサーチ業務やドキュメントレビューは、現時点でAIが最も実用的に機能する領域の一つでもある。ベーカー&マッケンジーの判断が「AIウォッシング」なのか、業界構造の実質的な転換なのかは、まだ判断できない。重要なのは、その判断がつかないまま人が切られているという事実だ。

考える問い

  • 効率化の恩恵を受ける弁護士と、効率化の代償を払う支援スタッフの間に、同じ「AI時代」の物語は成立するのか

報道記事・ソース

公式発表・一次情報

調査:Challenger, Gray & Christmas「2025 Year-End Challenger Report」

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ジョン

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ジョン

techtech.club 編集長。メディアで起業し、元はスタートアップのプロダクトマネージャー。一度テクノロジーに賭けて挫折した。その経験がいまの生き方や考え方、事業の起点になっている。ここで書くのは答えではない。投資・キャリア・事業など専門家でなくても自分の頭で判断するための材料と視点。読者に教えるのではなく、一緒に考える側にいたい。