会議が止まる瞬間には、だいたい同じ理由がある。案がまだ「言葉」のままだからだ。

「写真を大きく使ったほうがいい」「いや、情報量を優先すべきだ」。

この種の議論は、誰かが実際に形にするまで決着しない。そして形にするには時間がかかる。デザイナーに依頼し、上がってくるのを待ち、ようやく見比べる。その待ち時間のあいだ、意思決定は宙吊りになっている。

ChatGPTの画像生成を使うようになって、この待ち時間がほとんど消えた。チラシでも、バナーでも、Webサイトでも、頭の中にある案を数分で複数のモック画像にして、並べて見比べられる。

決め方が変わったというより、決めるまでの距離が縮まった。考える・決める・動く、というループが速く回るようになる。今回はその型を、チラシのデザイン比較を題材に解説していく。

この記事でできるようになること

  • 頭の中にある複数のデザイン案を、ChatGPTで数分でモック画像にする
  • 2案だけでなく、3案・4案を並べて比較できる状態を作る
  • 「言葉の議論」を「形の比較」に変えて、合意形成の時間を縮める

専門外でも問題ない。デザインツールは使わない。やることは、作りたいものを言葉で説明して、出てきた画像を並べるだけ。

最終アウトプット

同じ情報を載せたチラシを、レイアウトの方向性だけ変えて4案。これを横に並べた比較ボードができる。

「作る待ち時間」を消す。ChatGPTでチラシのモック画像を量産して意思決定を速くする

この状態まで来れば、議論はほとんど終わっている。あとは並べて指を差すだけになる。

結論を先に

「作る待ち時間」を消す。ChatGPTでチラシのモック画像を量産して意思決定を速くする

初っ端から言葉で議論せず、形にして並べる。これが今回の型のすべてだ。

もちろん人間の言葉でこのアウトプットの目的やゴール、スケジュール、担当など話すことは話す。しかし、ないものに対して議論を重ねるのは時間の無駄になっていることが多い。

人間が手で作っていた頃は、案を形にすること自体がコストだった。だからA案とB案、せいぜい2つを比べて決めていた。作る待ち時間がほぼゼロになると、その制約が外れる。3案でも4案でも並べられるようになり、決めるための材料が増える。待ち時間が消えた結果、意思決定の質と速さが同時に上がる。

どんな場面で使っているか

実際の案件では、クライアントへの提案前に方向性を社内で固める段階で使っている。具体的な中身は社内情報なので出せないが、用途はシンプルだ。「この訴求、写真主役と文字主役でどっちが刺さるか」を言葉で延々と議論する代わりに、両方を形にして並べる。それだけで会話が「好き嫌い」から「どちらが目的に合うか」に変わる。

今回事例として紹介するチラシに限らず、LPのファーストビュー、SNSのバナー、提案資料の表紙など「複数の方向性で迷っている」場面ならどこでも効いてくる。

やってみる:ベーカリーのチラシを4案出す

ここから先は、手法を見せるための架空の題材を使う。実際の案件で作ったものは出せないので、「新しくオープンするベーカリーの集客チラシ」という設定で同じことをやる。

ChatGPTの画像生成は日本語の指示に強い。日本語のチラシのように、文字の意味と配置が問われるものでも、方向性の比較に使えるレベルの画像が返ってくる。

お題と評価軸を決める

最初にやるのは、画像を出すことではない。何を比べたいのかを決めることだ。ここが曖昧だと、出てきた4案を前にしても結局決められない。

今回の題材では、比べる軸を「レイアウトの方向性」一本に絞る。載せる情報(店名・オープン日・目玉商品など)はすべての案で固定し、見せ方だけを変える。軸を一つに絞るほど、比較は速くなる。

ChatGPTに方向性を変えて出させる

ChatGPTの画像生成に、次のプロンプトを投げる。情報は固定して、レイアウトの方向性だけを指定する。

A4縦のチラシのデザイン案を作ってほしい。テーマは[新しくオープンするベーカリー]の集客チラシ。
載せる情報(すべて日本語で、4案とも共通):
– 店名: [モーニングベーカリー]
– オープン日: [6月20日]
– 営業時間: [朝7時〜夕方6時]
– 目玉商品: [焼きたてクロワッサン]
– 場所: [駅前商店街]
サイズ
– A4 縦表示
– 表面のみ<
レイアウトの方向性は次のとおり。4案とも同じ情報のまま作成してください。
– 案A: 商品写真を大きく主役にした、大胆で食欲をそそるレイアウト
– 案B: 情報を整理して読みやすさを優先した、安心感のあるレイアウト
– 案C: 手書き風で温かみのある方向
– 案D: 余白を活かしたミニマルな方向

ChatGPTは複数の画像をまとめて出力できる。このプロンプトを1回投げれば、案Aから案Dまでが上から順に生成されていく。1案あたり1分ほど、4案そろっても数分。手で作るのとは比べ物にならない速さになる。

「作る待ち時間」を消す。ChatGPTでチラシのモック画像を量産して意思決定を速くする

ここでのポイントは、最初から完璧を狙わないことにある。文字の細部や商品の正確さは、この段階ではどうでもいい。方向性が比較できる粗さで十分だ。仕上げは、方向が決まった後に本物のデザイナーやツールでやればいい。

並べて即断する

4案がそろったら、並べて見比べる。1つの返信に縦に並んで出てくるので、そのままスクロールしてもいいし、スクリーンショットを撮って横に並べてもいい。

並べた瞬間に、言葉では延々と続いていた議論が数秒で終わる。「Aは目を引くが情報が入らない」「Bは読みやすいが地味だ」「Cが目的に一番合う」。形になっていると、判断の根拠が誰の目にも同じように見える。これが、言葉の議論との決定的な違いだ。

なぜこれが効くのか

手順だけ見ると、ただの便利ワザに見えるかもしれない。

だが効いている本当の理由は、もっと構造的なところにあると思っている。それが以下の3つ。

  • 言葉の比較は、終わらない
  • 2案で止まる人間、4案出せるAI
  • 待ち時間が消えると、ループが速く回る

言葉の比較は、終わらない

「写真主役がいい」と「文字主役がいい」がぶつかったとき、言葉だけでは決着しない。お互いが頭の中で別のものを想像しているからだ。

同じ「写真主役」という言葉でも、人によって思い浮かべる絵が違う。議論が長引くのは、意見が割れているからではなく、比べる対象が存在しないからだと考えている。

形にして並べた瞬間、全員が同じものを見る。そこで話してみると案外同じことを想像していたなんてこともある。比較が成立してはじめて議論が終わる。

2案で止まる人間、4案出せるAI

人間が手で作っていた頃、案を増やすことには明確なコストがあった。1案作るのに数時間かかるなら、4案作るのは現実的ではない。だからA/Bの2案で妥協し、その2つの中から選んでいた。

作る待ち時間が消えるとこの制約が外れる。3案でも4案でも、同じ手間で並べられる。すると、最初の2案には入っていなかった「案C」が一番良かった、ということが普通に起きる。

選択肢を絞ってから選ぶのではなく、選択肢を広げてから選べるようになる。検討の範囲そのものが広がる。これは効率化ではなく、判断の質を上げる話だと考えている。

待ち時間が消えると、ループが速く回る

考える、決める、動く。この3つはループになっている。従来は「考える」と「決める」のあいだに、作る待ち時間という長い空白があった。その空白のあいだ、プロジェクトは止まっている。

作る時間がほぼゼロになると、考えたらすぐ形にでき、形になればすぐ決まり、決まればすぐ次に動ける。一周が短くなれば、同じ時間でループを何周も回せる。試す回数が増えれば、当たりに近づく速度も上がる。

AIで得た時間の価値は、空いた時間で別のことができること以上に、このループの回転数が上がることにあると思う。

どこまで横展開できるか

「作る待ち時間」を消す。ChatGPTでチラシのモック画像を量産して意思決定を速くする

この型は、チラシ専用のものではない。「複数の方向性で迷っていて、形にしないと決められない」場面ならどこにでも当てはまる。

  • LPやWebサイトのファーストビューの方向性比較
  • SNS広告・バナーのデザイン案出し
  • 提案資料・スライドの表紙やトーン決め
  • 商品パッケージやロゴの方向性の初期検討

今回のポイントは、「画像生成」ということ。

ChatGPTが生成する画像は、クオリティが上がっており、日本語にほぼ完璧に対応。そして見せたい内容や指示に対する理解力も上がっているため、画像生成しないもの(例えば、WebデザインやLP)でも活用できてしまう。

画像生成のクオリティはプロ顔負けなのでそのまま使うこともできるが、本当に使えるアウトプットかは必ず細部まで確認をすることが重要。

編集者あとがき

「作る待ち時間」を消す。ChatGPTでチラシのモック画像を量産して意思決定を速くする

AIで時間が浮く、という言い方には少し違和感がある。浮いた時間で休めるわけではなく、その分だけ多く回せるようになる、というのが実感に近い。ただ、今回のチラシの話で本当に言いたいのはそこではない。AIが登場した以上、仕事の進め方そのものを変えないといけないと考えている。

これまで「作る」という作業には、常にコストがかかっていた。だから出せる案は、デザイナーの限られた時間の中、限られた予算の中での話だった。案は多ければいいわけではない。それでも、作るコストが圧倒的に下がって制約が外れた状態で、ゴールや目的に一番合うクリエイティブを探せる。これはAIがあってはじめて成り立つことで、人間だけの社会活動では難しかったと思う。

だから、人間が作ることを前提にした進め方は、もう遅れはじめている。AIが作れることを前提に動かないと、あっという間に置いていかれる。これはビジネスの話でも、個人の能力の話でも、会社の話でも、同じように当てはまる。

プログラミングのようにインパクトの大きい領域ばかりが注目されがちだが、チラシ1枚のような細かい作業も、積み重なればコストは膨らんでいる。そういう細部でAIをどう使うか、その視点に気づけるかどうかのほうが、実は効いてくる気がしている。

特に「自分は専門家ではないから」「経験がないからこの仕事はできない」と思っている人こそ、AIで可能性が広がる。できない対象がはっきり分かっているなら、そこをAIに任せてどうにかできないかを考えたほうが、よほど生産的だし、結果として自分の能力も伸びていく。

今回はたまたまChatGPTでベーカリーのチラシを作っただけだ。工夫と発想次第で、効率化できる場所も、これまでできなかったことができるようになる場所も、いくらでもある。その思考だけは、止めないほうがいいと考えている。

ジョン

Author

ジョン

techtech.club 編集長。メディアで起業し、元はスタートアップのプロダクトマネージャー。一度テクノロジーに賭けて挫折した。その経験がいまの生き方や考え方、事業の起点になっている。ここで書くのは答えではない。投資・キャリア・事業など専門家でなくても自分の頭で判断するための材料と視点。読者に教えるのではなく、一緒に考える側にいたい。