「AIを仕事に入れるとは、どういうことなのか」「AIが何をしてくれるのか、いまいちピンとこない」。

このような声を、いろいろな場でよく聞きます。

この記事では、私がこの質問にいつもどう答えているかと、自分の会社で実際にAIに何を任せているかを、順番にお話しします。AIに詳しい人向けの話ではありません。

この記事の要点

  • 「AIを仕事にどう入れるのか」がわからない、という声をよく聞く
  • AIで何ができるかを説明しても、輪郭がない人には積み上がらない
  • これまでのシステムは決まったとおりに動き、AIは決まっていないことを引き受ける
  • 自動販売機と、コンビニの店員の違いに近い
  • 私が任せているのは、思いつきの整理と、読みきれない情報の選別

「AIで何ができるか」を説明しても、届かないことがある

AIにはどういう特性があるのか、どういうリスクがあるのか。業務のどこに入れると、仕事の流れがどう変わるのか。私はこういう話をよくします。

ただこのような説明が届きにくい場合もあります。うなずいてはいるけれど、目が動いていない。ひととおり話し終えて「ここまでで何か気になることはありますか」と聞いても何も出てこない。

これは、伝え方や相手の理解という話ではありません。そもそも前提が崩れており、質問を作れるだけの足場がまだ無いと感じています。

AIの特性、リスク、業務への入れ方。これらは全部、AIというものの輪郭がすでに頭にある人には効く話です。輪郭が無い状態でこれらを聞いても、どれだけ丁寧に説明しても、そのまま流れていってしまいます。

だから、必要なのはもっと手前の話なのだと思います。そもそもAIとは何なのか。これまで会社にあったシステムと何が違うのか。

よく聞かれる「システムとAIの違い」

よく聞かれる「システムとAIの違い」

ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。専門用語を使わずに、私がいつも話している内容をそのまま書きます。

その前に一つ、言葉を整理させてください。

厳密に言えば、AIもシステムの一種です。ですから「システムとAI」と並べるのは粒度がそろっていません。ただ、現場でこの言い方をするとき、多くの人が指しているのは、これまで会社に入ってきた「決まったとおりに動く仕組み」とAIとの違いです。この記事でも、その意味で「システム」と呼びます。

これまでのシステムは、決まったとおりに動く

これまでのシステムというのは、決まりきった動作をするものです。Aが来たらBにする。Bになったら次はCにする。この流れが最初から決められていて、そのとおりに何度でも同じように動きます。

メリットは、ぶれないこと。決まった動きしかしないので、イレギュラーが起きません。同じものを入れれば、いつでも同じ結果が返ってきます。

デメリットは、その裏返しです。決まった動きしかできないので、想定していなかったことが起きると止まる。人間がやるような「考える」動作は入りません。機械的、という言葉がいちばん近いと思います。

会社にすでに入っている仕組みの多くは、こちら側です。

AIは、決まっていないことを引き受ける

一方でAIは、人間が考えたときのような答えを返してきます。

厳密に言えば、人間とまったく同じ意味で考えているわけではありませんが、使う側から見ると、考えたとしか思えない返し方をしてきます。

もちろん、AがBになるという決まりきった動きもできます。ただ、そこに思考が入るのが違うところです。

Aが来てBにしたときに、「本当はBではなくCのほうがいいのではないか」と提案してくる。あるいは、「前にもBというのがありましたね。AとBは、思っていたより結びつきが強いのではないか」と、こちらが気づいていなかった見方を返してくる。

決まっていない部分を、その場で考えて埋めてくれるのがこれまでのシステムと決定的な違いです。

「自動販売機」と「コンビニの店員」

「自動販売機」と「コンビニの店員」

身近なもので例えると、自動販売機と、コンビニの店員の話がわかりやすいかと思います。

自動販売機は、これまでのシステムです。お茶のボタンを押せば、お茶が出てくる。何度押しても、誰が押しても、同じものが出てきます。

決められたとおりに動くという意味では間違えません。しかし、お茶のところにコーラを入れてしまえば、お茶のボタンを押すとコーラが出続けます。決め方が間違っていれば、間違ったまま正確に動いてしまいます。

ただし、その日がどれだけ寒くても、「今日はあたたかいほうがいいですよ」とは言ってくれない。聞かれていないことは、考えないからです。

コンビニの店員は、AIのほうに近い。「これください」と言っただけなのに、袋はいるか、温めるか、と聞いてきます。こちらが言っていないことを汲んで、足りないところを埋めてくる。ときには、頼んでもいない新商品をすすめてきてくれたりもします。

ただ、店員には自動販売機のような安定がありません。日によって、人によって対応が変わります。

決まったものが必ず出てくるのが自動販売機。決まっていないところを考えて埋めるのが店員。これが、そのまま「これまでのシステム」と「AI」の違いです。

裏を返せば、AIには自動販売機のような保証がないということです。決まりきった動作を必ず守ってほしい場面では、これは弱点になります。自分で考えた結果、こちらが頼んでいないことをやってしまうからです。

そしてもう一つ、AIは、事実と違うことを、いかにも正しそうな文章で返してくることがあります。しかも、自信のなさが文面に出ません。だから読んだだけでは見分けがつかない。

これは店員の例えで言えば、知らないことを聞かれたときに「わかりません」と言わず、それらしい説明をしてしまう状態に近いと思います。ですから私は、そのまま外に出す文章や、数字が絡む判断は、人間が確認する前提で使っています。ここを飛ばすと、速くはなりますが危なくなります。

整理すると、こうなります。

これまでのシステム AI
動き方 決まったとおりに動く 決まっていないところを考えて進む
強み 何度でも同じ結果になる 提案・振り返り・整理ができる
弱み 決め方を間違えると、間違ったまま動く 毎回同じにならない。事実と違うことを正しそうに答える
向く仕事 手順が決まっている作業 手順が決まっていない作業

どちらが優れているという話ではありません。決まっている仕事はこれまでのシステムに、決まっていない仕事はAIに。この分け方の理解ができると、「AIを仕事に入れる」という言葉の意味に具体性が増してくると思います。

私が実際に、仕事のどこにAIを入れているか

ここからは、私が自分の会社で実際にやっていることを2つ紹介します。どちらも派手な仕組みではありませんが、共通しているのは、決まっていない部分をAIに引き受けさせているという点です。

思いついたことを、その場で投げておく

移動中や打ち合わせの合間に、ふと何かを思いつくことがあります。以前はメモアプリに書き留めていました。ただ、書いたきり見返さない、結局そのまま消えていく、ということも多々あります。

今は、SlackやLINEでAIに投げています。

話し言葉のまま、思いついたことをそのまま送る。するとAIが、こちらの言いたかったことを汲んで文章に整え、内容ごとに分類して保存しておいてくれます。

そして週に一度、「今週のアイデア一覧」という形でまとめて出させています。自分が何を考えていたのかが、一週間分ならんで返ってくる。ここで初めて、思いつきが見返せるものになります。

これまでのシステムだと、こうはいきません。投げた文章をそのまま保存することはできても、何を言いたかったのかを汲んで整えるところ、内容ごとに分けるところは、決まった手順にできないからです。自動販売機に話し言葉を入れても、整理されては出て来ません。

思いついたことを、その場で投げておく
後で確認したい情報を投げて記録する

読みきれない情報を、選ばせる

もう一つは、情報の扱い方です。

仕事に関係する記事、SNSの投稿、動画。目を通しておきたいものは毎日出てきますが、全部見るのは無理です。かといって見ないでいると、世の中から遅れてしまうこともあります。

そこで、気になったものはとにかく全部文章にして保存。ファイルとして溜めるだけ溜めておきます。読むかどうかは、そのとき判断しません。

週に一度、AIに溜まったものを全部読ませます。そのうえで、私が普段どういうことに関心を持っているか、今の会社や事業の状態を踏まえて、どれを優先して見るべきかを判断させ、要約付きの一覧にして出させています。

人間の私は、その一覧をざっと眺めるだけで、本当に気になったものだけ中身を開きます。そこから何か思いつけば、先ほどのアイデアの置き場に入れさせて、今後はアイデアのほうでAIを使っていく流れです。

ここでAIがやっているのは、「どれが自分にとって重要か」という判断です。この基準は、あらかじめ決めておくことができません。決められないからこそ、これまでは人間が全部読むしかありませんでした。

気をつけていることこと

どちらも手軽に投げられるぶん、気をつけていることがあります。個人情報と、お客さまの機密にあたるものは入れません。どうしても必要なときは、特定できない範囲まで落としてから渡しています。

また、すべてのAIに判断させるのではなく、人間が判断できるサポートをAIにさせるように設計していることです。

手軽だからこそ意識しておかないと、あとから困ることになります。

AIは、道具というより一人分の役割に近い

AIは、道具というより一人分の役割に近い

ここまでが、私がいつも話していることと、実際にやっていることです。最後に、この2つを通して自分の中ではっきりしたことを書いておきます。

一つだけお伝えするとしたら、AIを、これまでのWebサービスやシステムと同じ棚に置かないほうがいい、ということです。

これまでのサービスは、便利な道具でした。決まった機能があり、それを人間が使う。しかし自動販売機を何台並べても、店員にはなりません。AIも道具として使えますが、道具として使うだけなら、本来の力の一部しか使っていないことになります。

感覚としては、人を一人迎え入れるのに近いです。もちろん、人間そのものではありません。疲れませんし、感情もない。ただ、こちらの意図を汲んで、考えて、判断して、提案してくる。任せられる範囲は、道具というより役割です。

これまでのやり方が間違っていた、という話ではありません。これまでのやり方で会社が回ってきたのは事実ですし、決まった仕事はこれからもシステムのほうが向いています。ただ、これまでとは種類の違うものが出てきた、ということは知っておいて損はないと思います。

この記事を見た後、次に何をすれば良いか

最後に、次何をしていけば良いかを書いておきます。

AIツールを探すことから始めなくて構いません。先に見るのは会社や仕事の中です。

  • 自分にしかできない仕事は何か
  • 毎週くり返していて、消耗している作業は何か

この2つを、紙でもメモでもいいので書き出してみてください。そのうえで、書き出したものを「手順が決まっているもの」と「決まっていないもの」に分けます。

手順が決まっているものは、これまでのシステムや既存のサービスで片づくかもしれません。決まっていないもの、つまりこれまで「自分がやるしかない」と思っていたもの。そこが、AIの出番です。

やることが減れば、その分の時間と思考体力は、考えることや決めることに戻ってきます。AIがあるとないでこの差は大きいはずです。

「AIで何ができるか」から入ると、たいてい話が止まってしまいます。自分の困りごとから入ると、動く。私が繰り返し見てきたのは、そういう順番でした。

なべ

Author

なべ

小さな会社の経営をAIで変える。自分で実践して、その渡り方を経営者の言葉に翻訳して届けます。やり方が変わる前に先に渡る人でありたい。起業7期目 / 元スタートアップPM