これまで業務の効率化には、エンジニアや外注先が必要だった。AIがそれを変えた。自分一人で、業務ツールを作れる時代になった。

だが、ここで問われるのは「作れるかどうか」ではない。「何を作るべきか」だ。

作れることと、作るべきことは違う。アウトプットではなくアウトカム——つまり「業務がどう変わるか」から逆算して、作るものを見極める。この判断ができるかどうかが、AIを手段として使いこなせる人とそうでない人の分岐点になる。

この記事では、WordPressサイトの業務改善を事例に、Claude Opus 4.6でミニツールを実装した過程を共有する。

伝えたいのは実装の方法ではない。「何を作り、何を作らないか」の判断プロセスだ。

この記事でできるようになること

30分後の状態:

  • 自分の業務フローから「ツール化すべきポイント」を特定する判断基準を持てている
  • 工数・インパクト・影響度の3軸で「作るもの」を選べるようになっている

その先:

  • Claude Opus 4.6を使って、自分のWordPressサイトに業務効率化ツールを実装できる
  • 同じ判断プロセスを、WordPress以外の業務改善にも応用できる

結論

先に結論を述べる。AIで業務ツールを作るとき、最も重要なのは「何を作るか」の判断だ。そしてその判断基準は「何が作れるか」ではなく、「業務がどう変わるか」にある。

これまで業務改善には、エンジニアや外注先が必要だった。見積もりを取り、仕様を伝え、テストして、修正して——その過程だけで数週間かかることもあった。AIはこのプロセスを一人で完結させる力を持っている。だからこそ、「何を作るか」の判断は自分でしなければならない。エンジニアに相談して止めてもらう、という安全弁がないからだ。

今回の事例では、最初に検討した「記事の入力欄を自動化して、値を入れるだけで記事が完成する仕組み」を見送り、「サイドバーのコピペツール」に縮小した。結果として、実装は1回のやり取りで完了し、作業時間は約40%削減できた。

この方法が向いているのは以下のような人だ。

  • WordPressで繰り返し発生する入力作業を抱えている
  • 「もっと楽にできるはず」と感じているが、何を自動化すべきかわからない
  • AIでコードを書けることは知っているが、本番環境を壊すのが怖い

一方、この方法では対応しきれないケースもある。

  • データベースとの連携が必須な業務改善。今回のジェネレーターはコピペなので、データの一元管理にはならない
  • 複数人が同時に使う業務フロー。シングルユーザー向けの効率化が前提
  • すでに業務フローが完成している場合。壊す必要はない

最終アウトプット

今回作ったのは、WordPressの投稿編集画面のサイドバーに設置する「買い目ジェネレーター」だ。競馬予測記事を運営するサイトで、記事作成時の買い目入力と点数計算を自動化するツールである。

AIで何でも作れる時代に「作らない判断」ができるか。Claude OpusでWordPress業務ツールを実装した話

馬券種別(単勝・三連単など)を選ぶと、対応する買い方(流し・BOXなど)が自動でフィルタされる。出走頭数を選択するとチェックボックスが表示され、馬番を選ぶだけで点数がリアルタイムに計算される。金額を入れれば総額も自動算出。「コピー」ボタンで出力テキストをクリップボードにコピーし、そのまま記事に貼り付けられる。

記事データやWordPressのデータベースには一切影響しない。ただのコピペツールだ。この「ただの」が重要なのだが、それは後述する。

具体的な使用方法と手順

全体の流れを示す。

  1. 業務フローを洗い出し、課題を特定する
  2. 解決方法を検討し、実装範囲を決める
  3. Claudeに情報を提供し、解決案を出させる
  4. 要件を詰めて実装する(人間⇄AI)
  5. WordPressに設置してテストする

業務フローを洗い出し、課題を特定する

最初にやることは、AIに何かを作らせることではない。自分の業務を観察することだ。

今回のケースでは、競馬予測サイトのライターに実際の作業の様子を見せてもらい、業務フローを洗い出した。

洗い出した業務フロー(記事作成):

  1. その日の全レースの予測を行う
  2. 各レースの本命馬とコメントを書く
  3. 買い目(馬券種別、軸馬、相手馬)を決める
  4. 点数を計算する
  5. 金額を決める
  6. 上記をテキストとして整形し、記事に入力する
  7. 記事を公開する

特定した課題:

工程4〜6に時間がかかっていた。具体的には、三連複フォーメーションや馬連流しの点数を毎回手計算し、買い目を手書きで整形して記事に入力する作業だ。1レースあたり数分でも、12レース分となると積み重なる。

本来、ここに時間をかける意味はない。予測と判断(工程1〜3)にこそ時間を使うべきであって、計算と転記は定型作業だ。

ここが重要だ。 この課題は、実際に作業を観察したから見えた。「たぶん面倒だろう」という予測ではなく、「実際に面倒だった」という事実がある。

楽をする発想は、最初からは出てこない。手を動かして苦労を知ることで、初めて「ここを改善すべきだ」というポイントの解像度が上がる。

解決方法を検討し、実装範囲を決める

課題が見えたら、次は「どう解決するか」ではなく「どこまで解決するか」を考える。

最初に検討した案:カスタムフィールド連携

記事のデータ構造ごとテンプレート化する方法だ。プラグインを使ってレースデータを管理する仕組みを作り、入力画面と自動計算を実装。記事作成はフィールドに値を入れるだけで完了する。

インパクトは大きい。理想形ではある。しかし、以下の理由で見送った。

  • 記事データ(データベース)に直接影響する。万が一のリスクが高い
  • 実装コストが大きい。WordPressの標準機能を拡張する方法 or プラグインとプログラムを組み合わせる方法、いずれも構成が複雑
  • そもそもこの解決策が正しいかわからない。ここに工数をかけるべきか

採用した案:サイドバーのジェネレーター

投稿編集画面のサイドバーに、買い目のテキストを生成してコピーできるミニツールを設置する方法だ。

  • データベースに一切影響しない。壊れようがない
  • Snippetsプラグインに1つのコードを貼るだけで実装完了
  • 「計算と転記」という課題の核だけを解決する

 

業務改善で「何を作るか」を判断するとき、私は3つの軸で考える。これはWordPressに限らない。日報作成の効率化でも、見積もりの自動計算でも、同じフレームワークが使える。

自分の業務で試すなら、こう問いかけてみてほしい。

  • 工数:これを作るのに、どれくらいの時間と手間がかかるか
  • インパクト:完成したら、業務がどれだけ変わるか(時間短縮、ミス削減、ストレス軽減)
  • 影響度:もし不具合が起きたとき、どこまで影響するか
カスタムフィールド連携 ジェネレーター
工数 大(複数ファイル、テスト工数大) 小(1スニペット)
インパクト 大(記事作成を完全自動化) 中(計算と転記の自動化)
影響度(リスク) 高(記事データへの影響) 低(コピペツール)

工数が小さく、インパクトが中程度で、リスクが低い。これが「まず作るべきもの」だ。完璧を目指すのではなく、最小の実装で課題の核を解決する。

Claudeに情報を提供し、解決案を出させる

ここからClaudeの出番だ。ただし、いきなり「これを作ってくれ」とは言わない。

まずClaudeに以下の情報を渡す。

  • 目的:記事投稿の効率化
  • 業務フロー:工程1で洗い出した内容
  • 課題:点数計算と買い目の手入力に時間がかかっている
  • 解決の方向性:入力を選択式にし、点数を自動計算したい

Claudeに渡す情報は、以下のような形で整理した。

以下の業務について、効率化の方法を提案してほしい。

【目的】
競馬予測記事の作成を効率化したい

【現状の業務フロー】
1. 全レースの予測を行う
2. 各レースの本命馬とコメントを書く
3. 買い目(馬券種別、軸馬、相手馬)を決める
4. 点数を手計算する
5. 金額を決める
6. 上記をテキストに整形して記事に入力する

【課題】
工程4〜6に時間がかかっている。点数の手計算と、買い目テキストの手入力が1レースあたり数分、12レース分で積み重なる。

【環境】
WordPress(投稿タイプ:通常のpost)

まずは解決案を提案してほしい。具体的な実装方法はまだ決めていない。

ポイントは「こう作ってほしい」と指定しないことだ。「やりたいこと」は伝えずに、まずは解決案を提案してもらう。

なぜか。自分が思いついていない、もっと良い方法が出てくる可能性があるからだ。先入観を与えずにAIの提案を引き出す。もし自分の案より良いものが出なければ、そこで初めて自分の案を提示してレビューしてもらう。

今回、Claudeはカスタムフィールド連携やGutenbergブロックなど、工程2で検討した案と同様の提案を返してきた。それ自体は正しい提案だが、先に述べた理由で見送り、ジェネレーター案を提示した。

そして、今回は「Claude Opus 4.6」を使った。理由は、AIが人間に対して 迎合しない。忖度しない。「その案はやめたほうがいい」と言えるAIだからだ。

今回はジェネレーター案に対して否定はなく、「いい判断だと思う」という評価だった。逆に言えば、もしこの案に問題があれば、Claudeは止めてくれたはずだ。この信頼感が現時点で私がClaudeを使う理由の一つでもある。

要件を詰めて実装する(人間⇄AI)

方針が決まったらClaudeと要件を詰める。今回確認したのは以下の点だ。

  • 表示位置:投稿編集画面のサイドバー(サイドバーのパネル)
  • 表示条件:全投稿タイプで表示
  • 金額出力:各金額入力→総額自動計算
  • 実装方法:WordPressプラグイン「Snippets」にコードを登録

AIで何でも作れる時代に「作らない判断」ができるか。Claude OpusでWordPress業務ツールを実装した話

 

実装にあたって伝えた「やりたいこと」は、以下の2点だけだ。

  • 馬券種別・買い方・出走頭数をドロップダウンで選択し、馬番をチェックボックスで選ぶと、点数が自動計算されること
  • 出力テキストをコピーボタンで記事に貼り付けられること

これだけで、正常に動作するコードが1回で出てきた。 エラーなし、バグなし、仕様バグもなし。

実現された機能は以下の通り。

  • 馬券種別に応じた買い方の自動フィルタ(単勝を選ぶと「通常」のみに制限される等)
  • 出走頭数に応じたチェックボックスの動的生成
  • 馬券種別×買い方×選択馬番からの組み合わせ点数自動計算
  • 各金額×点数の総額リアルタイム計算
  • フォーマット済みテキストのワンクリックコピー

AIで何でも作れる時代に「作らない判断」ができるか。Claude OpusでWordPress業務ツールを実装した話

WordPressに設置してテストする

Snippetsプラグインを開き、新規スニペットを作成し、Claudeが出力したコードをそのまま貼り付けて有効化する。これで完了だ。

AIで何でも作れる時代に「作らない判断」ができるか。Claude OpusでWordPress業務ツールを実装した話

 

投稿編集画面を開くと、サイドバーに「買い目ジェネレーター」が表示される。三連単BOXで6頭選べば120点と即座に計算され、金額が自動で出る。

AIで何でも作れる時代に「作らない判断」ができるか。Claude OpusでWordPress業務ツールを実装した話

コピーボタンを押せば、記事にそのまま貼り付けられるテキストがクリップボードに入る。

テスト結果は問題なし。1回のアウトプットで、想定通りに動作した。

ポイントは、このツールがWordPressのデータベースに一切触れていないことだ。 あくまでサイドバーに表示されるブラウザ上で動く計算ツールであり、投稿データとは独立している。だから壊しようがない。この「影響範囲の小ささ」が、試しやすさに直結する。

評価

項目 評価 コメント
コスト ★★★★☆ (4/5) Claude有料プラン推奨(無料でも可)。資金・時間・コミュニケーションコストを削減
クオリティ ★★★★★ (5/5) 1回の指示で正常動作するコードが出力された。バグ・仕様バグなし(ミニツール)
使いやすさ ★★★★★ (5/5) Snippetsにコードを貼るだけ。WordPressの基本操作ができれば実装可能
汎用性 ★★★★★ (5/5) 競馬は事例。判断フレームワーク(工数×インパクト×影響度)はあらゆる業務改善に応用可能
難易度 ★★☆☆☆ (2/5) コード自体はClaude任せだが、工程1〜2の「何を作るか」の判断には業務理解が必要

使用ツール・コスト / 所要時間

  • コスト: 追加料金なし
  • 所要時間: 約 45 分

編集者あとがき

正直に書く。最初はもっと壮大なものを作ろうとしていた。

カスタムフィールドでレースデータを構造化し、Repeater Fieldで複数レースを管理し、フロント表示も自動出力する。記事作成は値を入れるだけで完了する——という理想形だ。

Claudeと仕様を詰めていく中で、Gutenbergブロック案が出て、Repeater+JS案が出て、PHPファイルの配置場所まで議論していた。

そこで立ち止まった。

「これ、本当に今やるべきか」と。最初の業務効率化ステップで記事データに影響する実装に時間をかけるのは合理的ではない。もっと小さく始められないか。

結果がジェネレーターだ。データベースに触れない、ただのコピペツール。これで作業時間が40%減った。

ここから得た学びは2つある。

1つ目。AIで何でも作れるからといって、作りすぎないこと。工数とインパクトと影響度を考えて、作るものを見極める。AIは手段でしかない。問うべきは「何が作れるか」ではなく「業務がどう変わるか」だ。

2つ目。楽をする発想は、最初からは出てこない。実際に手作業でやってみて、苦労があるからこそ「ここを自動化すべきだ」とわかる。最初から予測で「面倒そうだから自動化しよう」では、改善のポイントがずれる可能性がある。まず自分でやる。あるいは、実際にやっている人の作業を観察する。苦労を自分ごとにしてから、AIの出番だ。

この判断プロセスは、WordPress以外にも使える。

日報作成、見積もり計算、請求書のフォーマット統一——業務フローを分解して、繰り返し・計算・転記が発生するポイントを見つけ、最小の実装で解決する。Claude Opus 4.6はそのパートナーとして申し分ない。

次に試したいのは、このジェネレーターの出力を記事テンプレートに直接流し込む仕組みだ。ただしそれは、サイト運営が軌道に乗ってからでいい。今はこれで十分機能している。

ジョン

Author

ジョン

techtech.club 編集長。メディアで起業し、元はスタートアップのプロダクトマネージャー。一度テクノロジーに賭けて挫折した。その経験がいまの生き方や考え方、事業の起点になっている。ここで書くのは答えではない。投資・キャリア・事業など専門家でなくても自分の頭で判断するための材料と視点。読者に教えるのではなく、一緒に考える側にいたい。