2月第1週、テック市場で奇妙なことが起きた。Palantir CEOのアレックス・カープが決算説明会でSaaSの終焉を宣言し、その翌日にAnthropicが法務向けAIツールを発表すると、ソフトウェア株から48時間で2850億ドルが消えた。同じ週、AIバブルへの警戒も過去最高に達している。
Bank of Americaはこの状況を「相互排他的なシナリオが同時に織り込まれている」と評した。
AIの将来とソフトウェアの未来をめぐり、2つの矛盾する物語が同時に語られている。この矛盾の中に、テクノロジーの変化について私たちが見落としている構造がある。
Anthropicの法務AIツール発表を契機に、SaaS株が48時間で2850億ドルの時価総額を喪失。
この矛盾は市場の不合理ではなく、「AIかSaaSか」という二項対立そのものが現実を捉え損ねている兆候である
「AIはバブル」と「AIがSaaSを殺す」という論理的に両立しない2つの物語が同時に市場を支配し、テクノロジーの未来像が混迷している
Overview
- Palantir CEOのアレックス・カープは2月3日の決算説明会で、AIがSaaS企業を陳腐化させると主張。自社のAIプラットフォームがSAPのERP移行を「数年の作業から2週間に短縮する」と述べた
- 翌日のAnthropicの法務AIツール発表で、Thomson Reuters、RELX、Wolters Kluwerなど専門データベース企業が一日で13〜18%下落し、JPMorganの米ソフトウェア株指数は1日で7%下落した
- Bank of Americaのアナリストは、市場が「AIの投資対効果の低下」と「AIによるSaaS完全破壊」という論理的に矛盾する2つのシナリオを同時に売りの根拠にしていると指摘した
- 2024年にSalesforceとWorkdayを解約して話題を呼んだKlarna CEOのSiemiatkowskiは、2025年3月に「SaaSをLLMで置き換えたのではなく、データの統合と整理の結果として一部のSaaSが不要になった」と訂正している
2つの恐怖が同時に語られている。AIは過大評価されているという恐怖と、AIがすべてを置き換えるという恐怖。だが、この2つは同じ世界線に存在できない。AIがバブルなら、その崩壊後にSaaSは再評価される。SaaSが本当に破壊されるなら、AIは実需に裏打ちされた本物だ。この矛盾が示しているのは、市場の不合理さではない。私たちが「AIかSaaSか」という問いの立て方を間違えているということだ。
Klarnaが実際にやったのは、SaaSをAIで「置き換えた」のではなく、データを統合し直した結果として一部のSaaSが不要になっただけだった。テクノロジーの変化は、既存のものを「消す」のではなく、その存在意義を「問い直す」形で起きる。ソフトウェアが消えるのではない。「ソフトウェアを人間が操作する」という前提が変わろうとしている。
考える問い
- 「AIかSaaSか」という二項対立は、かつての「クラウドかオンプレミスか」と同じ構造の誤りを繰り返していないか?
- ソフトウェアを「人間が操作するもの」という前提が崩れたとき、私たちの仕事の定義はどう変わるのか?
- テクノロジーの「次の形」を理解するために、私たちは何を手放す必要があるのか?
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