AIに仕事を頼むと、返事を待つ数十秒のあいだに別のタブを開き、戻ってきたそれらしい答えにざっと目を通して次へ進む。仕事は進んでいるのに、自分が何を考えて決めたのかは、あとから説明できません。「AIに頼りすぎると考えなくなる」とよく言われますが、私の場合は怠けているときではなく、効率よく働こうとしているときに起きていました。
料理でいえば、煮込みを待つあいだに別の料理を3品始めるようなものです。手は止まらないのでどの皿も仕上がりはしますが、鍋のあいだを行き来するうちに味見が雑になり、確かめきれない味のまま出してしまいます。
この記事の要点
- AIに頼りすぎた原因は、待ち時間を惜しむ時間基準の効率意識
- 先に自分で考えて文書にしてから渡し、人には「何を考えて作ったか」を聞く
- 考える力が落ちるかは頼り方しだい。長い目で見た正解は、まだ誰にも分からない
AIに頼りすぎた原因は、怠けではなく待ち時間を惜しむ効率意識だった
私は社内の仕事の多くをAIと分担していて、その仕組みは小さな会社をAIで「属人化しない経営」に変えた記事に書きました。仕組みが回るようになってからは、AIに頼む仕事が増え、そのぶん返事を待つ時間も増えています。
振り返ると、頼りすぎの原因は怠けではなく、待ち時間を無駄にしたくないという効率の考え方で、それが仕事の切り替えを増やし、AIの出力を確かめる頭の余力を減らしていました。
待ち時間を埋めるほど効率が上がる、という前提が変わった
見積書を作るときは、私が考えた根拠と金額の決め方をAIに渡して議論し、最後は会計ソフトにつないだAIに作らせます。返事を待つのは会話なら数秒、AIが作業をするときは数分から数十分で、そのあいだぼーっとしているのはもったいないと考えてしまい、早く次の仕事を終わらせようと別の仕事に手をつけていました。
これまでの正解は空き時間を埋めることで、人に頼んだ仕事は数日戻ってこないため、そのあいだに別の仕事を進めても困りませんでした。ただ、その効率は時間を基準にした考え方です。AIは数秒から数十分で戻り、何本も並べて頼めるので仕事を行き来する回数が大きく増え、足りなくなるのは時間ではなく、戻るたびに使う頭の余力のほうでした。
終わっていない仕事から移ると、前の仕事に注意の一部が残って次の仕事の出来が下がり、これを注意残留と呼びます(Sophie Leroy、2009年)。AIを何本も並べれば、終わっていない仕事は常にいくつも手元に残ります。
作業の記録で振り返った、私のAIの頼り方
AIに仕事を頼む画面(Anthropic の Claude Code)に、やり取りの時間を記録する小さな仕掛けを足していて、その記録から2026年10月9日から22日までの14日分を数えました。
| 数えたもの | 14日分の記録 |
|---|---|
| AIとやり取りしていた時間 | 約68時間(4,082分) |
| 2つ以上のAIを同時に動かしていた時間 | 1,371分(やり取りの時間の34%) |
| 3つ以上のAIを同時に動かしていた時間 | 408分(やり取りの時間の10%) |
| 同時に動かしたAIの数の最大 | 5つ |
| 5つを同時に動かした日 | 4日 |
| 1日に手をつけた仕事の数の最大 | 26件 |
やり取りの間が15分以内なら、読む・考える時間も含めて1つの作業と数え、自動で動く作業は除いています。
6月の時点で、待つあいだに別の仕事をするのはやめたいと記録に残していたのに、10月になっても3分の1の時間で2つ以上を同時に動かしていて、やめたかった頼り方を4ヶ月たっても続けていたことになります。
承認は、いつの間にか素通しになっていた
このサイトには、会社の仕事のやり方が変わったニュースを会社ごとのページに載せる欄があり、AIが仕分けたものを週に1回、私が承認してから載せていました。
始めた数日は中身を確かめてから承認していたものの、続くうちに毎回確かめる必要を感じなくなり、「多分、今回もちゃんとできているだろう」と思って、承認を考えずに通していた節があります。3回の承認で載せた45件のうち外したもの・直したものは0件で、AIが自分の判定に自信がないと付けていた6件も、そのまま通っています。
確かめる手間が減っていく流れは研究にも出ています。採用担当者181人の実験(Fabrizio Dell’Acqua の論文。専門家の審査である査読の前)では、精度の高いAIの推薦を渡された人ほど労力をかけず、精度の低いAIを渡された人より判断が不正確になっていました。いつも正しく出てくるものほど確かめる理由が薄れていく点は、私の承認も同じでした。
反対に、システムを疑って、核の反撃につながりかねない警報を止めた人もいます。1983年、ソ連の早期警戒衛星が米国からミサイル5発が発射されたと知らせたとき、当直のスタニスラフ・ペトロフ中佐は、地上のレーダーが発射を捉えておらず、本物の攻撃なら5発ではなく数百発で来るはずだと考えて誤報と判断し、攻撃ではなく故障として報告しています(米国物理学会 APS News、2026年)。原因は、雲に反射した日光を衛星が発射と読み違えたことでした。
システムの答えを別の材料と照らした中佐に対し、私の承認からは、元の記事と照らす手間がいつの間にか抜けていきました。
承認を待つぶんニュースが載るまで平均4日遅れ、それでいて止めたものは0件だったので承認はやめ、いまはAIが自信なしと付けた判定だけを、別のAIが元の記事と照らしてから載せています。最初の回では、この確かめ役のAIが5件のうち1件を止めています。確認が効いているかどうかは、気持ちではなく、通した件数のうち止めた件数で見えました。
先に自分で考えて、文書にしてから渡す
頼り方の失敗は承認のほかにもあり、AIが出してきた提案や資料が前提から外れていて、最初からやり直したことがあります。そのやり直しで Claude の使用量を大きく使い、使った分だけ払う料金に換算すると数千円になります。月額で使い放題だからといって、前提や設計が不確かなまま仕事を投げると無駄遣いになり、見えにくいだけで使用量の枠も費用も電気も使っています。
いまは基本的にすべて先に自分で考えるようにしていて、どこまで考えるかは仕事によって違います。
| 仕事 | 先に私が考えること | AIに頼むこと |
|---|---|---|
| 提案書 | 中身をかなり考え、文章にして渡す | 渡した文章をもとに、議論の相手になる |
| 見積書 | 金額の根拠と、金額の決め方 | 考えの漏れと別の視点を出し、見積書を作る |
| 記事 | 書きたいことを軽く考えて渡す | 企画書を作り、私の書き込みを受けて直す |
この記事も、最初に ChatGPT が書いた下書きは研究を引いて論理も通っていたものの、私の実体験も数字もない、調べれば誰でも書ける一般論だったので、AIに企画書を作らせ、私が30分ほど考えたことを書き込んで返しています。ただ、それらしい体験や数字もAIは作れてしまうので、何が独自性なのかは私にとってもこれからの課題です。

先に考える理由は、出戻りを無くすことです。AIは手元の資料から情報を引き出してくれますが、人がその場で見聞きして感じたことや考えまでは分からないので、任せきりにすると方向のずれた答えが返り、1つずつ直す手間がかかって「AIは使えない」と思う原因にもなります。だから人と会った場で得た情報があるときは必ず先に自分で考えて文書にしていて、最近は打つのが面倒なので音声入力で話しています。
AIを使ったかではなく、何を考えて作ったかを聞く
頼りすぎの問題は自分の中だけで起きるわけではなく、社内のメンバーから受け取った提案資料が、言葉の使い方や文章の組み立てから、明らかにAIで作ったものだと分かったことがあります。書かれていることは大きく間違っておらず妥当でしたが、私の中には「これは本当にその人が考えたものなのか」「この人を評価するときに何を見ればよいのか」という問いが残りました。
AIを使うことはもう当たり前なので、「これはAIを使ったのか」と聞くことに意味は無く、「AIがこう言っていたので」という説明も説明になりません。いまは中身の妥当性が高くても、「この提案資料は、何を考えて、どんな目的とゴールを決めて作ったのか」と聞くようにしていますが、私もまだ探っている途中です。
AIを使うことが前提の組織では、成果物の出来だけを見ても、その人の考えは見えません。外のニュースから見た同じ構造は、AIで誰でも成果物が整うと、出来ばえは力の印にならないという記事にまとめました。
考える力が落ちるかは、AIの頼り方で分かれる
ここまで読むと、結局AIに頼るなということかと思われるかもしれませんが、私はそうは考えていません。
AIに頼りすぎると考える力が落ちるのかは、いま多くの研究が調べていて、落ちるかどうかは頼り方で分かれることが見えてきました。高校生約1,000人の数学の実験(Bastani ほか、2025年)では、答えを出すAIを使った生徒は、練習の成績が上がったのにAIなしの試験では使わなかった生徒より17%低く、ヒントを出すように作ったAIでは、この下がりがほぼ抑えられています。
ただ、長い目で見た影響はまだ分かっていません。AIで文章を書くと脳の働きが弱まったというMITの研究は話題になりましたが、2026年10月の時点でも査読を経ておらず、結果の読み方に反論も出ています。
AIを使う量を減らす話ではなく、頭を使う場所を選ぶ話だと私は受け取っています。私の場合、その分かれ目は、先に自分で考えたかどうかでした。
AIとの付き合い方の正解は、まだ誰にも分からない
「まず自分で考えよう」「AIを鵜呑みにしない」といった言葉はよく聞きますが、今の正解が本当に正解かは、数年後か数十年後にならないと分かりません。スマートフォンが人や社会に与えた影響でさえ見えているのはまだ十数年分で、生成AIが仕事に入ってからの歴史は、それよりずっと浅いのです。
だから techtech.club を、どんな頼り方が良さそうか、何が失敗だったかを持ち寄れる場にしたいと考えています。自分と家族と大切な人が豊かになるために、そして日本をより豊かにするために、一人ひとりと一社ずつが知恵を出し合える場にしたい。あなたの頼り方や失敗も、この記事のコメントで教えてください。
最近AIの返事を待った数十秒に何をしていたかを思い出すと、自分の頼り方の入口が見えてきます。
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