営業リストを作る仕事があるとき、あなたはまず何をしますか。業種と地域を決めて、検索して、会社名や電話番号、メールアドレスなどを並べる。この始め方が”今まで”当たり前の作業で、私は100件のリストに2〜3日かかっていました。営業の本番はその先にあるのに、いちばん時間がかかるのがリスト作りだったわけです。

AIに頼めば早くなると、なんとなく分かっていましたが、実際に800件以上のリストを作成してわかったのは、AIに頼む前の30分が重要だったということ。

この記事では、その30分で何を行ったのかを書いています。細かい作り方の手順ではなく、何を考え、何を決め、何が変わったかの話です。

この記事(AIによる営業リスト作成)の要点

  • 成否は設計で決まる
  • 同じように集めても、営業できる率はデータ源で倍以上変わる
  • 設計は質のいる作業、実行は量の作業
  • 人がやるのは、最初の設計と最後の確認だけ
  • 線引きは「ただの作業か、人の仕事か」
営業リストの作成をAIに依頼する
営業リストの作成をAIに依頼する

件数より、連絡手段があるか

手でリストを集めていたころ、営業できる連絡先が入っているのは当たり前で、集めるべきは会社名でした。しかしAIに任せてみると、会社名は揃うのに連絡先の列だけが空いている行が出てきます。

人間なら入れて当然なものが、AIに任せると抜ける。この不安定さが始めたときの第一のハードルでした。

そこで、リストの良し悪しを件数で測るのをやめて、代わりにURLかメールのどちらかが取れている行が全体の何割かを見ます。私はこれを営業可能率と呼んでいます。

今回3つの業種でリストを作りましたが、同じように集めるつもりでも、データ源が違うと連絡先の取れ方がまったく違いました。

データ源 営業可能率
ポータル由来のリスト 39%
業界団体の会員検索由来のリスト 98%

ポータル由来のリストは、残りの61%にURLもメールもありません。会員検索由来のリストのほうは、98%に連絡先があります。同じように集めたつもりでも、実際に声をかけられる相手の数は、倍以上違ってきます。

検索を始める前に6項目を決めた

これまでは、業種や地域、会社規模を定めて、検索して集めることが一般的でしたが、AIによってその前提が変わり、「AIのための要件定義をする」ということが重要になります。

今回決めたのは6項目です。集める前に営業可能率を見積もるために決めます。

設計書は、Claude Coworkと一緒に作りました。私の会社と事業の情報はパソコンのファイルに置いてあり、Claudeが読める状態にしてあるので、余計な前提知識は指示せずとも目的やリストの使い方、CSVで出てきてほしい項目まで決められます。

設計のような質が問われる作業には高品質なAI(今回はClaude)を、実行には安価なAIモデル(今回はDeepSeek)を使っています。

項目 決め方
地域 一つの都道府県内に絞り、市区町村ごとに分けた
業種 3つの業種を選んだ
件数 目標件数を決め、途中で区切って確認するようにした
出力列 会社名・住所・電話・URL・メールなど、CSVの項目を決めた
除外条件 企業規模やチェーンなど、集めない会社を決めた
データ源 いちばん大事な判断。次の優先順位で決めた

データ源には、以下の優先順位で収集させました。理由は、AIによる収集が容易になることでコストが安くなり、また営業可能率が高かったからです。

  1. 業界団体の会員検索
  2. 自治体の許可業者名簿や指定業者リスト
  3. 業界組合の組合員一覧
  4. ポータル・比較サイト
  5. 検索エンジン。

料理に例えると、データ源は食材の仕入れ先にあたります。どれだけ丁寧に下ごしらえをしても、仕入れた食材より良いものは出てきません。上記は私が実際に試したときに営業可能率が高く、効率的に集められたデータ源です。

最初は自分の目でデータ源を探しました。何度か検索していると、どこに公開データがあるのか、どういう観点で探せば出てくるのかが分かってきます。自身が集めたいリストの特徴に合わせて調整したり、型にしてAIに渡すのも有効です。なお、収集の前に利用規約の確認は行います。

質がいる作業と、量の作業を分解する

このプロジェクトで使ったAIツールは、設計側と実行側の2つに分かれます。設計書づくりにはClaude Coworkを、収集はAIエージェントのHermes Agentを使って、安価なモデルDeepSeekで動かしています。

営業リスト作成で使用したAIと工程
営業リスト作成で使用したAIと工程

Claude Coworkとは

Claude
Claude Cowork

私がメインのAIとして利用しているAIエージェントです。

Anthropicが開発した、Claudeのデスクトップアプリ上でPCのファイル操作や複数ステップの作業を自律的に実行できます。

AIモデルは、高い処理能力と深い推論力を持つClaude Opusが使えるため、設計や議論、レビューなど人間に近い位置の作業を一緒に行っています。

公式サイト:https://claude.com/product/cowork


Hermes Agentとは

Hermes Agent
Hermes Agent

私が普段仕事(特に作業)を任せているAIエージェントです。

AIエージェントは、指示を受けると検索やファイル操作などの道具を自分で使いながら、作業を最後まで進めるいわば、AIの現場担当者です。

また、Hermes Agentは、タスク実行の成功と失敗から毎回学習するAIエージェントで、次のタスクをより上手にこなすように振る舞ってくれるのが魅力です。

公式サイト:https://hermes-agent.nousresearch.com/


DeepSeekとは

DeepSeek
DeepSeek

中国のAI企業「DeepSeek」が開発した大規模言語モデル(LLM)および対話型AIサービス。

ChatGPTやClaudeと比べて、値段が10倍以上安いのが最大の特徴です。

一方で、中国製であり、入力データが学習に利用される仕組みがあるため、機密情報や個人情報の入力は避けたほうが良いとされています。

公式サイト:https://www.deepseek.com/

今回の営業リスト作成で、人とAIがやったことは、以下の表の通り。

工程 担当
要件定義と設計書づくり 人(Claude Coworkと一緒に)
収集・検証・CSV化 Hermes Agent(DeepSeekの安価なモデル)
リストの確認 人(スプレッドシートにインポートして確認)
2回目以降の設計書 不要(前回の記録を手順として使う)

 

かかった時間と費用、収集リスト数は、次のとおりです。

項目 数値
人間が使った時間 30〜45分(初回の要件定義30分+最後の確認)
AIが動いていた時間 7〜8時間(人は待っているだけ)
AI利用料 約1,433円
収集リスト数 833件

手で集めていたころは100件に2〜3日かけていましたが、3つの業種を合わせた833件のリストが約一日放置で、約1,500円でできました。営業可能率は設計側で決まってしまうので、人の仕事は設計と確認だけに絞っています。

一度収集タスクを通すと、エージェントはつまずいた箇所と直し方を記録するので、次回はそれを手順として使えます。2回目からは設計書を作らず、前回と同じフォーマット、同じ選び方で走らせられ、地域や業種などの集めたいリストの特徴を伝えるだけです。

実際にやってみたコツは、AIエージェントに一度でたくさん集めさせようとしないこと。15社程度を1単位にして、1単位ごとに途中保存することで途中で止まってもデータが失われません。今回トータルで8時間かかっていますが、途中で作業は切っており、AIに指示すればうまく動いてくれます。

AIで収集したリストをシートで管理・運用
AIで収集したリストをシートで管理・運用

壊れるリストは、推測で埋めたリスト

営業リスト作成で注意したいのは、わからない項目をAIが勝手に埋めてしまうこと。

  • 企業名からドメインを推測させたら、7件すべてが同名の別会社だった
  • ポータルに載っている電話番号が、ポータル共通の窓口番号だった
  • 検索結果の「公式サイト」ラベルが、広告だった

リストが埋まればきれいに見えますが、壊れたURLと間違った電話番号はそのまま営業の現場に流れていき、営業可能率も見かけだけ上がります。

ルールは1つ。取れなかった項目は、推測で埋めない。これはAIエージェントに絶対的なルールとして課しています。

また、何度も収集を行うと以前と重複したり、情報漏れやデータ破損があったりするため、収集結果を再度AIに精査させる工程も入れています。

収集した営業リストの結果をテストさせる
収集した営業リストの結果を精査するのもAI

本質的な営業。人間とAIの線引き

今回の営業リスト作成をAIにやらせてみて、ある線引きが問われるようになっていると思います。

これはただの作業か、人間がやるべき仕事か。この線を引く感度を日々上げていくことが、いまの私の仕事の中で最も重要な視点だと考えています。

営業リスト作成は、営業をするための前工程。大変重要な作業でありながら、それだけでは営業にならない工程でもあります。

だから、営業リストとしての質を担保するために人間が介入するところ、数を担保するために人間ではなくAIに任せる所。この線引きを考えることは、様々な仕事でも起こっています。

前回の記事「「これは人がやる仕事」という思い込み。シフト表の転記をAIに渡した」では、紙のシフト表をAIに渡して「転記」という作業を見てきました。今回は、営業リストです。線引きの位置は会社ごと、個人ごとに違いますが、線を引く作業はこれからさらに現実的に突き当たってくるでしょう。

なべ

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なべ

テクノロジーは好きですが、そのものを作る側ではありません。かといって、新しい道具を集めて満足するほうでもない。

何か新しいものが出てきたとき、私が考えるのは「これで何ができるか」より「今のやり方このままでいいんだっけ」のほう。道具が増えるより、やり方ごと作り変えたり、無くしたりするほうが好きです。

AIが来て、人の考え方も、仕事の進め方も変わっています。その変わり方に興味があって自分の仕事で先に試しています。techtech.clubは、そのやってみた結果を置いておく場所です。

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