新卒失業率30%超えは煽りか予測か——AIエージェントが奪うのは仕事ではなく「修業の場」

ServiceNow CEOが「米国の新卒失業率は30%台半ばに達しうる」と予測した同日、FedExは2028年までにワークフローの50%超にAIエージェントを配備する計画を公表した。エントリーレベルの業務がAIに吸収される構造は、新卒一括採用に依存する日本企業にとっても他人事ではない。消えるのは「仕事」ではなく「新人が経験を積む場所」だ。
トピックスの要約
何が起きている?
- McDermottはCNBCで「米国の新卒失業率が数年以内に30%台半ば(mid-30s)に達しうる」と発言。現在の米FRBデータでは約5.7%。
- ServiceNowは自社の顧客・IT・HRサービスで、以前は人間が担っていた業務の90%をAIエージェントに置き換え済みと説明。
- FedExは最高デジタル情報責任者(CDIO)Vishal Talwar主導で、出荷監視・通関支援・コード開発にAIエージェントを導入済み。
- FedExは50万人超の従業員にAccentureと組んだAIリテラシー教育を2025年12月から開始している。
TECHTECH.の視点・洞察
予測と実行が同じ週に揃った意味
3月11日、Atlassianが1,600人を削減した。理由は「AIとエンタープライズ営業への投資を自己調達するため」だった。それから2日後の3月13日、ServiceNow CEOのBill McDermottが「米国の新卒失業率は30%台半ば(mid-30s)に達しうる」と予測し、同日FedExが「2028年までにワークフローの50%超にAIエージェントを配備する」と発表した。
個別企業の削減→CEO発言による予測→50万人企業の実行計画。この3つが1週間に揃ったことの意味は、どれか1つのニュースの衝撃より大きい。AIによる雇用再編は「いつか来る変化」から「今週の経営判断」になった。
「30%」という数字の正体
McDermottの予測は米国の新卒市場に向けたものだ。ニューヨーク連邦準備銀行のデータによれば、現在の米国の新卒失業率は約5.7%。そこから30%超へ跳ね上がるというのは、6倍の増加を意味する。McDermottが同じインタビューで述べたもう1つの数字——「ServiceNowは自社の顧客・IT・HRサービスの90%をAIエージェントに置き換えた」——が、この予測の文脈を照らす。
McDermottはAIエージェント製品を売る企業のCEOだ。「AIが仕事を代替する」という物語の強化は、ServiceNowの製品需要に直結する。WiseTech GlobalのCEOが「手書きコードの時代は終わった」と宣言して株価が10.7%上昇した構造と同じだ。発言の真偽とは別に、CEOがこうした予測を公の場で述べること自体が、AI導入を加速させるインセンティブ構造の一部になっている。
ただし、ポジショントークだからといって無視してよい数字でもない。先週配信したAnthropicの調査では、米国の22〜25歳の若年層でAI露出度の高い職種への就職率が約14%低下していた。「30%」の精度は疑わしくても、エントリーレベルの仕事がAIに吸収される方向性は複数のデータが裏付けている。
では日本はどうか。リクルートワークス研究所の調査によれば、2026年卒の大卒求人倍率は1.66倍で前年の1.75倍から低下した。「30%」という米国の予測数値がそのまま日本に当てはまるわけではない。だが、エントリーレベルの事務・サポート業務が縮小する構造は、日米で共通している。
消えるのは「仕事」ではなく「下積み」
FedExの計画には、注目すべき二重構造がある。一方で、出荷監視、通関支援、コード開発といったエントリーレベルの業務にAIエージェントを配備している。他方で、50万人超の全従業員にAccentureと組んだAIリテラシー教育を施している。「配備する」と「育てる」を同時に走らせている。
だがこの二重構造の中に、見落とされがちな断絶がある。教育プログラムの対象は「既存の従業員」だ。すでに社内にいる人間はAIとの共存を学べる。しかし、AIエージェントが組み込まれたワークフローには、新しい人間が座る椅子がない。FedExの計画が想定通りに進めば、2028年以降に入社する新卒は、AIが処理済みのワークフローの上流で、AIの出力を監視する役割からキャリアを始めることになる。
日本の新卒一括採用は、米国とは異なる緩衝材を持つ。企業が新人を一から育てる前提のシステムだ。だがその緩衝材は「育てるための仕事がある」ことに依存している。AIエージェントがエントリーレベルの業務を吸収すれば、新卒に任せる仕事そのものが消え、育成の足場が崩れる。求人倍率が1倍を超えていても、「採用されるが、何をさせるか分からない」という企業側の問題が浮上する。
「育てる企業」と「減らす企業」の分岐線
Block(旧Square)は従業員の40%を削減して株価が24%上昇した。Atlassianは10%を削減してAI投資に振り替えた。WiseTechは29%を削減した。これらの企業が行ったのは「人を減らしてAIを入れる」だ。
FedExが行っているのは「AIを配備しながら人を教育する」だ。50万人のAIリテラシー教育にかかるコストは、短期的には人員削減の真逆の判断に見える。だがFedExの事業構造——世界中の物流拠点で起きる例外処理、各国の通関規制、天候や政治情勢による経路変更——は、AIエージェントだけでは完結しない。人間の判断が必要な場面が残り続ける事業では、「AIと協働できる人間」を育てるコストが、「人間を減らすコスト」を下回る可能性がある。
この構造は日本企業にとってより切実だ。新卒一括採用で人を育ててきた日本企業がAI導入でエントリーレベルの仕事を消せば、育成システムそのものが空洞化する。エントリーレベルの仕事を消した企業は、5年後に「経験3年以上」の人材をどこから調達するのか。育成のコストを自社で負わなかった企業が、育成コストを負った企業から人材を引き抜く——この構造が定着すれば、「人を育てる企業」は競争上の不利を被る。市場がAI人員削減に報酬を与え続ける限り、この矛盾は拡大する。

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